第2節「雄英体育祭:前編」



「さァ、昼休憩も終わっていよいよ最終種目発表!!と、その前に予選落ちのみんなに朗報だ!!」


マイク先生の実況が再開した。


「あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……あ?」


あ、気付かれた。
そう思いながらこの騙された感覚を次第に感じ始める。


「どーしたA組!!?どんなサービスだ、そりゃあ!!!」


私含めたA組女子はチアの格好をしていた。


「は、はは……っ」


もう笑うしかない。乾いた笑みしかでないけど。
なぜこうなったのかと言うと、時は昼休憩にまで遡る。



***



「八百万、耳郎、苗字」


後ろから声をかけられ、一緒に食事を運んでいた私と百ちゃん、響香ちゃんは声のした方へ振り向く。


「何か用ですの?」

「いや、クラス委員だから知ってると思うけどよォ……」


百ちゃんの問いに峰田君は後ろを振り返って指を指した。


「午後は全員あの服装で応援合戦しなきゃいけないんだって」

「えぇっ!?」


峰田君の答えに響香ちゃんが驚きの声を短くあげた。
チアの格好なんてしたことないよ……。そもそもやったこともないし。


「そんなイベントがあるなんて、聞いてませんけど……」

「信じねェのは勝手だけどよォ、相澤先生から言伝受けたんだ。忘れてるかも知れないから一応教えてやれって」


しっかり者の百ちゃんも知らないイベント……。やはり雄英は何でも急なんだな……。
上鳴君も頷いているし、本当にあるのだろう。


「恥ずかしいけど、決まってるのならやらなきゃね」

「えぇっ、名前は絶対やらないタイプだって思ってたのにっ!!」


私だって恥ずかしいよ、響香ちゃん……!!
チア服は百ちゃんが用意してくれると言う事で、お昼を過ごした。



***



「峰田さん上鳴さん、騙しましたねーッ!!?」


まさか、嘘だったとは……。
座り込んでしまった百ちゃんを、お茶子ちゃんと一緒に背中を軽く叩いて励ます。
響香ちゃんはボンボン(正式名称は分からない)を叩きつけ、文句を言ってる。
気持ちはすっごく分かるよ。私も文句を言いたい。
だけどそれよりも……


「……」


しれっと観客に紛れている自分のサーヴァントであるネロとマーリンがカメラを連写しているのが気になる!!!
なんで持ってるの!?前日までそんなもの持ってなかったじゃない!!!


「さあさあ、みんな楽しく競い合おうレクリエーション!!これが終われば、最終種目進出4チーム、総勢16名からなるトーナメント形式!1対1のガチバトルだーッ!!」


私が観客席の方に気を取られていると、マイク先生の実況が仕切り直された。

最終種目、ガチバトル
と言うことは?


「決勝はサシでのトーナメントか……。毎年テレビで見てた舞台に立つんだ……!」

「去年、トーナメントだっけ?」

「形式は違ったりするけど、例年サシで競ってるよ。去年はスポーツチャンバラしてたはず」


切島君、三奈ちゃん、瀬呂君の会話が聞こえてくる。
なるほど。ガチという単語から考えられるに、もしかしたら個性を思いっきり使うものなのかもしれない。
……ここまで来れたんだ、上位に食い込みたい……!!


「それじゃあ、組み合わせ決めのくじ引きしちゃうよ!」


組が決まった後にレクリエーションが始まる。
最終種目に出場する人は出場してもしなくてもいいらしい。
……良かった、自由に決められるんだ。お陰で休める・・・


「それじゃ、1位の人から……」

「あのっ、すみません」


ミッドナイト先生の声を遮るように誰かが声を発した。
その人物は分かりやすいように挙手していた。


「……俺、辞退します」


そう言ったのは尾白君だった。
周りからは勿論驚きの声。……何故辞退を?


「騎馬戦の記憶……終盤ギリギリまでほぼぼんやりとしかないんだ……」



そういえば、尾白君は私と同じチームだった。
彼の言った言葉から察する事ができる。……尾白君も私と同じく洗脳されていたのだ。心操君に。


「チャンスの場だってのは分かってる。それを不意にするなんて愚かな事だって事も。……でもさ!みんなが力を出し合って争ってきた場なんだ……!こんな、こんな訳わかんないままそこに並ぶなんて……俺にはできない」


真面目な彼だからこそ、思う事があるんだろう。
同じ状態だった私にはそのような感情はない。……まあ、違う事に意識が向いてたって事もあるだろうけど。


「気にしすぎだよっ、本戦で成果を出せばいいんだよ!」

「そんなん言ったら、私だって全然だよ」

「違うんだ……っ、俺のプライドの話さ……っ。俺が、嫌なんだ……!」


透ちゃん、三奈ちゃんの言葉に尾白君は目元を抑えながらそう答えた。
私も何か言おう、同じチームだった人として。
口を開こうとしたとき


「あとなんで君らチアの格好してるんだ……」


尾白君の言葉に何も答えられなかった。
本当、なんでこの格好してるんだろう私達……。





2021/07/10


prev next

戻る














×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -