第10節「私の個性」



見慣れたアパートに入り、ある部屋の前でインターホンを鳴らす。
ドアの向こうから微かに聞こえてくる足音を聞いて、家主がいる事に安心する。


「はい……名前ちゃん!?」

「こんにちは、いーちゃん」


そう。
このアパートにはいーちゃんが住んでいるのだ。
小さい頃はよく遊びにも行ったっけ。


「ど、どうしたの?」

「いーちゃんに話したい事があって」

「は、話したい事……?」


いーちゃんに話したい事。
それは昨日彼に伝えられなかった私の個性についてだ。
いーちゃんは私を家の中に招き入れて、リビングに通すと飲み物を取ってくると言って奥へ消えていった。
どうやら引子さんはいないみたいだ。


「しかし、変わってないなぁ」


相変わらずオールマイト先生で部屋が埋まっているんだろう。IZUKUと書かれたネームプレートが未だに変わってないんだもの。
……本当に雄英に進学できて良かったね、いーちゃん。


「お茶しかなかったんだけど、良かった?」

「大丈夫だよ。丁度喉が渇いてたし、ありがとう」


目の前に置かれたお茶の入ったコップを手にとり、口の中へ流し込む。
私の正面にいーちゃんが座る。


「それで……。話したい事って?」


首を傾げ、不思議そうにこちらを見つめるいーちゃん。
もう一人の幼馴染みはあの場で私の“本当”の個性を知ったけど何も言ってこなかった。きっと彼の事だ、気にしていないのだろう。


「私の個性について。……いーちゃんの事だから、前から疑問に思ってたんじゃない?」

「えっ、……まぁ」


色んなヒーローの個性を纏めている彼が、私の個性の違和感に気付かないはずがない。
彼が小さい頃は誤魔化しが効いたが、今になればそれは嘘を付かれていたと気付いてたはずだ。
だけど優しいいーちゃんの事だ。きっとそれが真実だと思いながらどうしてこうなるのか、と疑問をずっと抱いていたに違いない。


「まずは謝らなきゃいけない。……ごめんなさい」

「へっ!!?か、顔をあげなよ名前ちゃん!!?」


私はずっといーちゃんを……みんなを騙していたのだ。
それに、これからもずっと騙していかなければならない。……私が別の世界で生きた人間だと言う事は誰にも言えないのだから。


「今まで騙しててごめん。……今から本当の事を言うから」

「……わかった」


部屋は静まり返っており、私の言葉を待っているかのようだった。
一呼吸置いて、私は口を開いた。


「私の個性はかつて英雄と呼ばれた人達の霊……私は英霊って呼んでるんだけど、その人達の力を使うことができるのが私の個性なの」

「英霊の力を……?」

「うん。私は彼らの事をサーヴァントって呼んでる」

「サーヴァントって確か、使い魔って意味だった気が……」

「物知りだねいーちゃん。うん、使い魔っていうのは間違ってないんだけど、私は使い魔というより家族として接してるよ」

「じゃあ、名前ちゃんの個性は擬態じゃないの?」

「擬態っていうのは合ってるよ。ただ、擬態する対象がサーヴァントってだけ」


私に質問を投げかけながらノートにまとめるいーちゃん。気分はインタビューを受けている人だ。……受けた事なんてないけど。


「実はね、いーちゃんも会ったことあるよ。サーヴァント達に」

「え、そうなの?」

「うん。覚えてるかな、昔公園で遊んでたときにかっちゃんに突っかかれた時の事」

「あ、うん……お、覚えてるよ」


嫌な事を思い出せてしまった……。ごめんいーちゃん。


「その時にいた白みがかった髪の男の人、覚えてる?」

「なんとなく……」


なんとなくでしか覚えてないって、マーリン。残念だったね。
心の中でマーリンを笑っておく。


「それと、去年のこの時期ぐらいだったかな。いーちゃんのノートを拾いに行った人、覚えてるかな」

「……あ、あの明るい緑色の髪をした……男の人?女の人?」


やっぱりエルキドゥは初見じゃ性別わかんないよね。
だけどいーちゃん、その中に正解はないんだ。答えはね、無性別なの。


「そして最近だったら……。迫ってきてたヴィランを前に召喚したあまり年が変わらないくらいの男の人……、その人もサーヴァントだよ」

「あの白い髪の男の人か……!」



やはり最近のことは新しいからなのか覚えているみたいだ。
四郎とエルキドゥは残ってて、マーリンは覚えてないっと。よし。



「じゃあ、体力テストの時と昨日のあの姿も……サーヴァントって人達に擬態してたの?」

「正解」

「なるほど……。その英霊って人を使うことができる強力な個性だから弱点らしきものがなさそうに見えるけど……。名前ちゃん、その英霊って人達は何人いるの?」

「11人だよ」

「11人、か……。ということは、11パターンの攻撃方法があるって事だね」

「そう言う事に……うん、なるね」



早速いーちゃんの分析が始まってしまった……。
これ、いつになったら帰れるのだろうか……。





2021/07/04


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