第5節「入試」
試験会場:演習会場C
実技試験は制服で受ける訳にはいなかないので、動きやすさを重視した服装だ。……つまり、ジャージである。
とは言っても動いていたらそのうち熱くなってしまうのが目に見えている。上下ジャージではなく、下ジャージに上はTシャツという格好だ。
「……ふぅ」
呼吸を整え、いつかくる開始の合図に備える。
「スタート!!!」
プレゼント・マイクによって試験開始の合図が出された。
こういうのってみんな一気に出て行っちゃうから転ける事があるんだよねー…。私は運動神経が良いとは言えないので、特にこういうのには気をつけている。
「さて、誰もいなくなった所で……」
右腕に赤いものが浮き上がる。____令呪だ。
「……いくよ。____擬態、”アーサー・ペンドラゴン”!」
『了解!』
声が聞こえたと思うと、私の身体にアーサーの魔力が入ってくる。……よし、安定した。問題なし。
目を開けると、少し先に見える同じ会場の人達。
その背中を見ながら、風王結界で隠された聖剣を取り出す。
「さて、どうやって稼ごうかな……」
あっという間に追いついた人の集まりは、ある一点でそれぞれ散らばった。
……ここら辺にいては誰かに横取りされるな。もっと遠い場所へ行こう。今の私ならここにいる人達より速く動けるはず。
「! 見つけたっ!」
目に入ったのは、先程説明にあった仮想敵だ。
聖剣を仮想敵に向かって振り下ろす。
おおっ、流石の切れ味だ。……いや、切れ味というより破壊力?
たった一振りで仮想敵がぺちゃんこになっちゃったんだもん。
「これは、一番も夢じゃないかもっ」
そう思いながら、見つけた敵を次々と散らしていく。
……自分の体感が合っていれば、試験終了まで残り2分かな?
ラストスパートだ、と他の場所へ移動しようとした瞬間だった。
「わっ!?」
突如現れたのは周りの建物より大きなロボット。
もしかして、あれが0P敵……!?
「ん? ……!」
目をこらして見ると、逃げ遅れている人がいる。
あんなのに巻き込まれたら一溜まりも無い。___助けなきゃ!!
下敷きになってしまえば、大変な事になる……!!
「あ……っ!?」
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございますッ」
逃げ遅れている人を抱え、0P敵から遠い場所へ移動させる。
擬態しているお陰でいつもより速く動ける。……全員助けられるか?
「……!!」
視界で誰かが躓き、その場で転けてしまった。___拙い!!
しかし、この距離ではあの子を抱えて移動するまでの時間が足りない……っ。
どうしたらあの子を助けられる?
「……いや、あの子を抱えるんじゃない」
あの敵を何とかすればいいんだ。
そう頭が判断した。
「……えっ!?」
転けて動けない子を背にして、0P敵と対峙する。
小さくだが驚いた声が聞こえるが、振り返って話す余裕はない。
「借りるよ、貴方の宝具……!!」
私は剣の先を空へ向け、詠唱を始める。
風王結界が解除され、聖剣の姿が現れる。
本来、この聖剣を使うにはいくつか条件が必要で、この世界ではほとんどの条件を満たすことはできない。
なので威力は本来の物より大幅に下がってはいるだろうが___
「約束された勝利の剣!!」
この敵を吹き飛ばす力はあるはずッ!!!
聖剣から放たれた黄金の光。
その光は敵を貫いた。
敵の動きが停止したのを見て、次に起こるであろう事が瞬時に頭に浮かんだ。
後から聞こえる瓦礫の落下する音を聞きながら、抱えていた子を下ろす。
「た、助けてくれてありがとう……っ」
「いいえっ……、ぐ……っ」
ふらつく身体。僅かに視界に見えた金色の光。____擬態状態が解除されたんだ……!
魔力を……、消費…し過ぎた……っ。
「試験、終了〜っ!!!」
プレゼント・マイクによる終了の声を最後に私の意識は暗くなった。
***
「…い、……おい。………おい起きろ!」
誰かが私を呼んでいる。そう思って目を開けた。
「……かっちゃん?」
視界に入ったのはかっちゃんの顔だった。
「お前、ぶっ倒れたんだってよ。キャパオーバー」
「あっ……」
そうだ、魔力使いすぎて気絶したんだった……。ってあれ、今何時!?
「……試験、終わってるね」
「あったりめーだろ。寝過ぎだっつうの」
そう言ってかっちゃんは私の頭を軽く小突いた。……地味にいたい……っ。
「おやおや。起きたんだね」
そう声を掛けてきたのは小さな老婆だった。……誰だろう?
「えっと、貴方は……?」
「私は『リカバリーガール』。この雄英高校の看護教論さ」
なんと雄英高校の先生だった。
と言うことは、ここは保健室……?
「そこの彼はあんたが目を覚ますまで待ってたのさ」
「えっ、先に帰ってて良かったのに……」
そもそも今日一緒に来たわけでもないのに……。
かっちゃんはそっぽを向いて「うっせー」と言った。
「何はともあれ、目が覚めて良かったよ」
「ご迷惑かけてすみません……」
「いいのさ」
リカバリーガールさんと話している間にかっちゃんは出口に向かってたようで、「帰んぞ」と言ってこちらを見ている。
私は急いでベッドから降り、帰る支度をする。……って私まだ着替えてない!!
「そのままでも大丈夫さね。特別さ」
「あ、ありがとうございます……」
私の心境を分かっていたのか、リカバリーガールさんがそう声を掛けてくれた。……時間も時間だし、許可してくれたんだろう。
「はいこれ」
「?……手紙?」
リカバリーガールさんが私に一通の封筒を渡した。
それを不思議そうに見ていると
「___紗菜に宜しくね」
お母さんの名前を出したのだ。
……もしかして、両親が言っていた信頼しているヒーロー……?
「ほらほら、ボーイフレンドが待ってるよ」
「ボッ……!?し、失礼しました!!」
そう言って保健室を後にした。
リカバリーガールさん、私とかっちゃんはそんな関係じゃないよ……!!
***
「あれが、紗菜達が言っていた”突然変異”の個性、か」
静かになった部屋で一人の老婆が扉を見つめてそう呟いた。
「確かに、あの個性は今までに見たことのないものだ。……これは面白いものを発現させてしまったようだね」
その部屋に設置された机に1枚の資料が置いてあった。
その資料にある顔写真欄には名前の顔が。
『個性:擬態』
そう書かれた欄の隣には誰かが書き足した文字があった。
『個性:擬態”(英霊)”』
2021/07/02
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