第4節「敵」



時の流れというものは思っているより早いもので、今私は中学3年生だ。あと数年で生前の年齢になるな……。
というのは置いておいて。



「おい。お前どこ行くんだよ」



今目の前にいるのは幼稚園からの付き合いである少年…爆豪勝己ことかっちゃんである。

一度かっちゃん呼びをしたところ何も言われなかったので、今日までずっと彼を”かっちゃん”で通している。……ぶっちゃけ、もう一人の幼馴染につられたのが切っ掛けなんだけどね。



「なんで言わなきゃいけないの?」

「お前は個性以外は弱ェからなァ。小中は話になんなかったが、ヒーロー科に行けばどっちが上かはっきりする!」



なるほど。どちらの個性が強いか白黒はっきりさせたい訳ね。



「理由は分かった。……で?そう言ってるかっちゃんはどこのヒーロー科に行くか決まってるの?」

「『雄英』に決まってんだろ」



雄英
その単語はかっちゃんともう一人の幼馴染の口からよく出ていたので自然と覚えていた。

雄英高校
正式名称『国立雄英高等学校』
ヒーロー科と言えば雄英!と言われるほどの名門校だ。



「勿論お前も雄英だよなァ?」

「え?違うよ?」

「はァ!!?」



別の高校だと答えれば、かっちゃんは机をバンッ!と叩きながらありえないと言いたげな声を出した。



「お前が俺の次に強いから言ってやってんのに断る気か!あ゛ぁ!?」

「別にヒーロー科は他にもあるでしょ……」

「雄英じゃねーと許さねェ」

「なんでかっちゃんに進路決められなきゃいけないの!?」

「うっせー!!お前は雄英行くんだよ!!!」



相変わらずの暴君っぷりだねぇ……。もう10年近く一緒にいたら慣れちゃったよ。



「あのねかっちゃん、進路はそう簡単に変更できないの。それに私、推薦が……」



隠していたつもりだったが、言わないと納得しないかっちゃんに既に進路が決まっている事を話そうとした瞬間だ。
ガラリと教室のドアが開いたのは。



「は〜い席に着いて〜。授業始めるわよ〜」

「……チッ」



かっちゃんは舌打ちをして自分の席に戻っていった。
……はぁ、疲れた。

私の席はかっちゃんから少し離れている一番後ろの席だ。近いのはもう一人の幼馴染の方かな。
しかし、同じ幼馴染なのにどうしてあの子には真逆の態度なんだろうか。個性がないからという理由ではちょっと納得できないんだよね……。


そのことばかり考えていたら授業は終わって、昼休みに入っていた。
私はお昼ご飯は持参する派なので、持ってきたお弁当を持ってある人物の席へと向かう。その席の主は私に気づくと、ぱああっと可愛らしい笑顔をこちらに向けてきた。



「お昼食べよっか!いーちゃん!」

「うん!」



こちらに笑顔を見せる少年は緑谷出久こといーちゃん……私にとってもう一人の幼馴染だ。
昔は出久君と呼んでいたのだが、幼児故だからなのか口が上手く回らなくて彼の名前を噛んでしまったことが由来で『いーちゃん』と呼んでいる。



「そういえばさっきの休み時間、かっちゃんと進路について話してたよね?……どこに行くか、もう決まったの?」



あー…かっちゃん声が大きいから聞こえてたのか……。どうやらかっちゃんは今教室にいないようなので、いーちゃんにだけ教えてあげる事に。


「決まったと言うより……」


私は携帯を取りだして、ある写真を画面に映し出していーちゃんに見せる。
いーちゃんは差し出した私の携帯画面を覗き見る。



「推薦来てるんだ。士傑高校から」

「えぇッ!!!?」



いーちゃんの驚きの声が教室に響く。今は購買に行っている人やそもそも教室で食べない人が出て行ったりしてて少ないとは言え、教室に人はいる。当然視線を集める訳で。



「ご、ごめん……」

「大丈夫。気にしてないから」



いーちゃんは教室をキョロキョロと見渡した後、ヒソヒソ声で話しかけてきた。



「……じゃ、じゃあ名前ちゃんは士傑高校に進むの?」

「そうだね。推薦貰ってるし」



士傑高校
東の雄英、西の士傑と呼ばれる通り雄英高校と同等のレベルを誇る難関校だ。

推薦が来たのは、確実に両親絡みだと思う。
何を隠そう、私の両親は士傑高校卒業生なのだ。本名も子供の存在も公表してないので、私がヒーローアクアとサナーレの子供である事は誰も知らない。

しかしアクアとサナーレは士傑高校の卒業生なので、公表されていない二人の名前は士傑高校のデータの中には存在するわけで。まあそこを理由に推薦を貰えたのだろう。



「じゃあ名前ちゃんとは別々になっちゃうのかぁ……」

「? そうなの?」

「う、うん。僕……」



段々と小さくなるいーちゃんの声。周りを気にしているのか、それとも自信がないのか。私的には恐らく前者。だってさっき視線集まった時申し訳なさそうにしてたし。

あまり大きな声で言えないのだろう。しかし彼が言いかけた先の言葉は聞きたい。なので、いーちゃんに顔を近づけた。



「!? 名前ちゃ、ちっ、近い……!!」

「でも聞かれたくないんだよね?」

「そ、それはそうだけど……」



目の前にいる顔の赤いいーちゃんから何となく分かってはいたが、彼は女性耐性が全く無い。しかし小さい頃から一緒にいた異性代表である私としてはちょっと複雑である。
だけど、慣れていたら慣れていたでそれは嫌だし……。

まあそんなことは良いとして。



「ほら、早く早く」

「……ぼ、僕!」



___雄英に行きたいんだ

勇気を振り絞ったような小さな声は芯の通ったもので。
彼の覚悟が本当なんだと分かった。



「そっか。……そうだよね」



いーちゃんが雄英高校に行きたいと言うのも納得がいった。だっていーちゃんはあの人の事が大好きだから。



オールマイト

オールマイトというのはNo.1ヒーローという称号を持つヒーローである。私はあまり興味がないんだけど、いーちゃんはオールマイトに憧れているのだ。



『いーちゃん。その人は誰?』

『オールマイトだよ!すっごくかっこいいんだよ!』



ヒーローと言えば?と尋ねればほとんどの人がその名前を口にする程に認知されている存在だ。
いーちゃんは勿論、あの子も……かっちゃんもオールマイトに憧れている。

それはそうだ。どんな悪い敵も倒してしまう”正義の味方”を具現化した存在なのだから。男の子ならば誰だってなりたいと思うし、憧れの感情を抱くのも頷ける。


……しかし、ヒーローは個性がないと成り立たない職業だ。
いーちゃんには個性が無い。だからヒーローになる夢は絶望的だ。

純粋に夢を追いかけているいーちゃんに”現実”を伝えられなかった。



「___一緒にヒーロー、なろうね」



また私は笑って誤魔化すんだ。
現実を伝えた彼の傷付いた顔を見たくなくて。



「……! うんっ」



君のその笑顔が、偶に私の心を抉るんだ。





2021/04/10


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