第5節「泡沫の夢」


side.サナーレ



五年前……オールマイトさんは瀕死の重傷を負って病院に運ばれていた。
その怪我の治療に私も呼ばれ、彼の怪我を癒やす為に個性を使用したが……私の治癒力を持っても一命を取り留める形にしかできなかった。

その事件が何なのか、今も尚私には伝えられていない。


個性という力があろうとも、所詮は人間。
力を与えるにしても、与えられる側も人間である事に変わりない。個人差という言葉があるように効き目も回復する力・質も当然人によって変わってくる。

今回の事件…神野区の悪夢と呼ばれる事件で名前は力を狙われ、利用された。
あれほど強力な個性であろうとも、能力である限り…人間である弱点は存在するのだろう。


「……じゃあ、お母さんはいずれオールマイトさんがこうなることを分かってたって事?」

「生きている事が不思議なくらいだったからね。遠からずこうなるだろうって予測はできたわ」


個性の為に私は医者としての知識を今も尚勉強している。
だから、オールマイトさんがいずれ引退する運命であるのも何となく察していた。

オールマイトさんの怪我は世間に公開されていなかった。だから私も彼が近い未来『平和の象徴』でなくなる事を分かっていて誰にも明かすことはなかった。
今日、娘に話すまでは。


「それに言ったでしょう?ヒーローは命を懸ける者だって。……オールマイトさんは最後まで命を張って引退した。ヒーローとしては名誉ある引退よ」

「……そっか」


納得はできないだろう。……しかし、現実だ。

平和の象徴がいない日常に世間はかなり困惑している。
次の平和の象徴はNo.2であるあの人だとか言われているけれど……。


「! ねぇお母さん、このニュース記事何?」

「どれどれ……あぁ、これね」


名前が見せてきたのは神野の悪夢が過ぎた後にチラチラと出てき始めた事件だ。

通称『UMA事件』
その名の通り架空の生き物……有名な例を挙げるならドラゴンとか巨大化した鳥や蛇……後は三つの顔がある巨大な生物とかかしら。
それらの個体が出現する事件だ。

未確認生物と呼ばれるその生き物たちが実際に存在する。それは一部の人にとっては浪漫を感じるだろう。……それだけなら良かったのだが。


「人の言葉が話せない……?」

「そうなの。そして___」


どんな攻撃も効かない……危険な存在である事。
日本各地で発見されているこの現象は、オールマイトさん引退と同様に市民に不安を煽っていた。





2024/06/08


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