第4節「神野区の悪夢」


※アルジュナ幕間の物語ネタバレ注意



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『私を……殺そうとした?』


無意識だった……彼女を殺そうとしたのは
彼女を夢の中へと誘い、その中で殺そうとした

クリシュナ”の存在を知られた…自分にとって恥ずかしくおぞましい、そんな“もう一人の私”を彼女は見てしまった
___怖かったんだ、知られる事が
大切だと思えば思うほど、“クリシュナ”の存在を知られたくなかった
見られてしまった以上、私は貴女を殺さねばならない……そう、思っていたのに


『怖いと思う事。人間ならば誰だってある“感情”だよ』

『失敗は誰にだってある……だって人間だもの。完璧に動くだけの感情のない機械じゃないもの』

『人間は失敗を重ねながら学んでいく生き物なんだよ。私も心の何処かで失敗は許されない事だって今でも思ってる……今の戦いもその1つ』

『だけど、何もかも完璧だったらつまらないよ。人間には感情がある。だから怒れて、怖がって、悔しくて……恥ずかしいって思えるんだよ。感情があるから、楽しいって思えるし、嬉しいって思えるし、誰かと喜びを共有できるんだよ。それができないのは……寂しいよ』

『……って自分の言葉のように言ったけど、実は全部言われた事なんだ。こういうのは、私みたいな機械人間より、誰よりも人間らしい立香君から言われた方が説得力があると思うけど……』


……あの出来事を終え、目覚めたマスターから言われた事だ

そんな事はない
彼女は彼女なりに人間になろうと努力している、学ぼうとしている
例えそれがドクターと呼ばれているあの男の為だと分かっていても、私にはその姿勢が、姿が輝いて見えた……美しいと思った

欲望に埋もれた人間達から生まれた彼女の中には、私と同じように別の彼女がいた
しかし彼女はその事を理解し、受け入れていた
……その心が羨ましかった


『! アルジュナが私の事をそんな風に思っていたなんて……知らなかった』

『貴女の記憶はパスを通じて私に流れてきた事があったので、貴女の事は分かっているつもりです。……しかし、私は貴女の事を知っていたというのに、私は自分について貴女に話していなかった』

『話したくない事は誰にだってある。踏み込んで欲しくないラインは誰にだってある。……だから、そんなに自分を責めないで』


___私は貴方が私を殺そうとしたことに怒っても、怖いとも思ってないから
その言葉に私は救われたと同時に、胸に温かい“何か”を感じた

それに気づいたのは、最期の別れと思われた、あの出来事だった



『マスター、藤丸殿、ここは撤退を。私が時間を稼ぎます』

『でもアルジュナがっ』


とある微小特異点での事
想定外の敵に追い込まれた私達は、勝ち目がないと判断した二人のマスターの指示で撤退を選んだ
しかし相手がそう簡単に逃がしてくれるつもりはなく

今カルデアとの連絡が途絶えている
ここで藤丸殿を……ナマエを失ってしまえば、人類史は消滅してしまう
ならばあの時と同じように、この目の前の敵を宝具で吹き飛ばす!


『何を今更。マスターを守る事がサーヴァントとして最重要の役割です』


……そういえば、あの人はこう言っていたな
マスターを殺そうとした罪を自分の死をもって償おうとしたのに、あの人はこう言ったのだ


『___死んで償う事は許さない。……本当に悪いって思うなら、ずっと一緒にいて』


小さな彼女の両手に包まれた自身の手が導かれた場所は、彼女の額
俯いて見えないその表情は、声から察するにきっと……泣いているのだろう

しかし私は戦士クシャトリヤであり、英雄であり___ナマエのサーヴァントだ
この仮初めの命を差し出す事さえ躊躇わない程に貴女を守りたいんだ
……“クリシュナ”を受け入れ、私を受け入れてくれた貴女だから


『___神性領域拡大、空間固定。神罰執行期限設定。魔力集束及び加速に必要な時間を推定___消費開始カウントダウン

『ダメッ!!』


こちらに手を伸ばす彼女の身体を突き飛ばす
その先にいた藤丸殿へとナマエの身体は後退していく


『例え仮初めの命であろうとも、貴女の為になら……貴女の為だから、この命を懸ける価値がある』

『待って……ッ!』

『離れていて下さい。……巻き込まれますよ』


長いようで短かった幸せ
……もっと早くに自分について明かせていれば、この幸せをもっと感じられたのだろうか

恐れる事を恐れないように、思っていようともそれを素直に受け入れる
……彼女の前で誓った事だ
そして、一人で苦しまないで悩みがあるなら話して欲しいと言ってくれた


『___破壊神の手翳パーシュパタ!!』


……私は貴女との約束を守れなかった
しかし貴女を守り切れるのなら、この霊基が消えようと構わない
私を受け入れてくれた貴女を守れたこと……それが何よりも嬉しいと感じたのだから


『嫌だ……逝っちゃいやだ……っ』


……嗚呼、最期になってやっと受け入れられた
彼女に抱くこの感情の名は___



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2024/04/21


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