第4節「神野区の悪夢」


side.緑谷 出久



かっちゃんが向こうにいる。
名前ちゃんも向こうにいる。……しかし、さっきの痛々しい悲鳴から察するに……いや察するも何も間違いなく致命傷を負っているのは間違いない。


「! 名前ちゃ…!!」


ちらっと後ろを振り返って様子を見た僕の視界に入ったのは___背中から大量の血を流して倒れている名前ちゃんだった。


オールマイトはオール・フォー・ワンが邪魔して二人を助けられない状況。
オールマイトとかっちゃん、名前ちゃんがこんなピンチな状態の中であるのに……僕等は戦う事が許されない。

向こうには……視界にはっきりと映る程の距離にかっちゃんと名前ちゃんがいる。なのに、僕達が個性を使って戦う事は許されない!!

せめて…隙が……!!どこか!!一瞬でいい、二人を救け出せる道はないか___!!
二人が助かれば、オールマイトも存分に戦える。
隙が……隙があれば……!


「! 飯田君……みんな!」


思い着いた内容。
しかしそれはかっちゃんに負担が大きいものだった。


「だめだぞ緑谷君……!!」

「違うんだよ、あるんだよ!決して戦闘行為にはならない、僕等もこの場から去れる!それでも二人を助け出せる方法が!」

「へぇ、是非とも聞きたいな」

「言ってみてくれ」

「でもこれは……かっちゃん次第でもあって、かっちゃんに負担が大きく掛かるんだ」

『僕達に助けられる事が屈辱ではないのか』
切島君によると麗日さんがそんな事を言っていたという。確かにかっちゃんはそう思っているだろう。


「この策は……僕じゃ成功しない。だから切島君___君が成功率を上げる鍵だ」


思い着いた策をみんなに話す。
だけど、これだけで成功するとは言い切れなかった。


「だけど、向こうには倒れている名前ちゃんがいる。まずかっちゃんは名前ちゃんを見捨てたりしないし、僕があの立場だったとしても絶対にできない。もしかっちゃんが応えてくれたとしても……」

「しても?」

「まず、この策ではかっちゃんに飛んでもらう必要がある。でもかっちゃん一人なら飛べるだろうけど、名前ちゃんがいるから手が塞がっていて両手が使えな……」


って、あれ?
自然と会話してたけど、この声は……


「やぁ緑谷君」

「わああっ、んぐっ!?」

「こらこら、叫ぶんじゃない」


斜め後ろを振り返ると、そこには色素の薄い髪の男性がニコニコとした表情でこちらを見ていた。その人物は名前ちゃんの個性であるサーヴァントの一人…キャスターさんだった。

僕達が隠れて立っている塀の上に屈んだ状態で、ニコニコとこちらを見つめている。
自然と会話に入っていたから、いつからそこにいたのか全く気付かなかった……!


「ほらほら、話の続きを聞かせてくれたまえ」

「えっと、その……」

「もしかして、遠慮してるのかい?」


遠慮も何も、キャスターさんにとって名前ちゃんは大事な存在である事に間違いないハズ。……まさか、今の彼女の状況に気付いていない?
こちらを見下ろす表情は相変わらずニコニコと笑みを浮べていて、何を考えているのか分からない。


「なら君が考えている事を当てよう。私のマイロード、名前の存在が邪魔だって言いたいんだろう?」

「!? 邪魔って言い方は……!」

「あぁ、もう少しオブラートに包んだ方が良かったかい?でも間違ってはいないだろう?……現に向こうにいる爆豪君にとって、気絶したマスターは邪魔なお荷物だ」


キャスターさんは向こう側……かっちゃんと名前ちゃんがいる方向を振り返った。


「どうやら随分厄介な術……いや、個性だったね。それを受けているようでね、今のマスターは危険な状態なんだ」

「危険?」

「そう。君はマスターと爆豪君を同時に助けたいようだけど___」


キャスターさんが言葉を続けようとした瞬間、向こうで誰かの悲鳴が聞こえた。
その様子を見ようと欠けた塀から覗こうとしたが、キャスターさんの腕が視界を遮る。


「なんだあれは……!」

「キャスターさん、一体なにが」


あったんですか、と言葉を続けようとした瞬間。


「うわあああっ!?……なんだこれ!?」

「ナイフ……!?」

「これは……苦内か?」


上から落下してきたのはナイフと苦内と……ナイフに似ているようで違う武器。
どうやら僕達の正面にある建物にぶつかってきてここに落下してきたらしい。


「苦内とナイフ……そして黒鍵か。……これはアサシン達とルーラーか」

「キャスターさん!向こうで何が起こっているんですか!?」


僕にも見せて欲しい。
……向こうで今何が起こっているのか知りたい!


「君達が今やるべき事は、爆豪君をつれて此処から離脱する事だ」

「でも名前ちゃんが!」

「マスターの事なら私達に任せてくれ」


こちらを振り返ったキャスターさんの紫の瞳と目が合う。


「大丈夫、必ずマスターを助けるさ___この花の魔術師『マーリン』が約束をしよう。……これでも珍しく、頭にきているんでね」





2024/03/12


prev next

戻る














×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -