第4節「神野区の悪夢」


side.爆豪 勝己



「黒霧、皆を逃がすんだ」


男の指が変形し、こちらに伸びてきたと思えば……その指はワープ野郎に刺していた。


「ちょ、貴方! 彼やられて気絶してんのよ!? よくわかんないけど、ワープ使えるなら貴方が逃がして頂戴よ!」

「僕のはまだ出来たてでね、マグネ。転送距離は酷く短い上……彼の座標移動と違い、僕の下へ持ってくるか僕下から送り出すしか出来ないんだ。ついでに……送り先は人なじみ深い人物でないと機能しない。だから黒霧にやってもらう」


「個性強制発動」と声が聞こえたと同時に後ろから吸い込まれるような勢いの風圧が発生する。


「!」


遠くから聞こえた音。そこから現れたのはオールマイトだ。


「逃がさん!!」

「常に考えろ、弔。君はまだまだ成長できるんだ」


オールマイトとヴィランのボスの拳がぶつかり合い、再びすごい威力の風圧が発生した。


「行こう死柄木!あのパイプ仮面がオールマイトを食い止めてくれている間に___コマ・・を持ってよ」

「めんっ…ドクセー……!」


コイツら、さっきと動きが違う……!
向かってくるヴィラン等の攻撃を、爆破で防いだり躱したりして何とか捕まらないように動く。

向こうも緊急事態。さっきまでと違って強引にでも俺を連れて行く気だ!
6対1……いや


「コイツ…姫は俺達の仲間になったんだろ?!なら俺達の言う事を聞いてくれんのか!?」

「おい姫!そこにいるコマを捕まえろ!!」

「……代理指令者マスターからの認識を確認。貴方を“仲間”と認識します。命令をどうぞ」

「さっき言ったろ!?そこの男を捕まえろ!!」

「……命令を確認。実行に移します」


7対1だ。
……間違いなく今の名前が一番厄介だ!!


「……チッ!」


動き出したと思えば、普段の彼奴からは想像できない速さで俺に急接近してきた。
早い……でも、まだ認識できる!!
咄嗟に飛んで躱し、他のヴィランがいない場所へと着地しようとした瞬間。


「!?」


地面に青黒い炎が。
誰の仕業か分かる……名前だ!
あの青黒い炎は見た事がある。体育祭でクソ眼鏡とやり合ってた時に見た奴と同じだ!!
どちらにせよ、あの炎に当たるわけにはいかない。近くの場所へと着地しようとした時だ。


「!? 鎖……!」


金色の光が現れたと思えば、腕と胴体に鎖が巻き付いていた。
どうやら面白ェくらいに誘導されて、まんまと引っかかったらしい。


「標的捕捉」

「クソッ、かってェ……!」


何重にも巻き付いている鎖のお陰で身体はビクともしねェ。
腕ごと縛られていたらまだ爆破で何とかなったかも知んねェが、その事を想定していたのか腕は上に固定されていて、今個性使っても意味はない。


「すっげェ……あんな簡単に捕まえちまうなんて」

「次の命令をどうぞ」

「いちいち言わないとわからないなんて、姫は頭の中空っぽなのかしら」


どうする?
このままじゃ俺も名前も別の場所に連れてかれる!


「あの子を拘束したままゲートに向かうの。いい?」

「わかりました」


名前が俺の方へと歩いてくる。
せめて名前だけでも逃がてぇ。……しかし、今の彼奴に俺の声は届かない。いくら俺が何と声を掛けようとも聞いてくれは……いや、待てよ?
さっき彼奴は俺が名前を呼んだとき反応していたよな……。


「……やるしかねェ」


___もしかしたら、まだ彼奴の意識は完全に取り込まれていないんじゃ……!
その望みにかけるしかねぇ!


「おい名前! 聞こえてんだろ!! 何のうのうと操られてんだよ、アホ!!!」

「ッ!!」


___反応した!
意外と分かりやすく反応すんなコイツ!!



「くっ、うぅ……!!」

「しっかりしろ!! それでも……それでも___俺が認めた奴かよ!!!」



瞬間、俺を拘束していた鎖が消えた。
目の前で頭を抱えて蹲っていた名前がゆっくり顔を上げる。


「かっ…、ちゃん……?」

「……何操られてんだよ、バカ」

「………ごめん」


その表情は俺が良く知る名前で違いなかった。
よし、こいつの意識がこっちに戻ってきたんなら、後はここから逃げるだけだ!!


「……いたっ」

「! わりぃ、強く引っ張りすぎた」

「ちがう……かっちゃんの…せいじゃない。身体が…痛くて……」


いつもの余裕そうで大人臭ぇ口調は感じられず、弱々しくて……。
こうしてはっきりと名前が弱っている姿を見るのは初めてだ。
だからといって、ここから逃げるにはその痛みに多少我慢して貰うしかない。


「はぁ……余計な事を増やしてくれるなよ」


その声が後ろから聞こえた瞬間、誰かに押された。
誰かなんて考えなくても、目の前にいる名前の仕業だ。


「苗字名前という存在は要らない。欲しいのは___全ての命令に従う姫だけだ」

「かは……っ」


俺を庇うように跨がっていた名前の背中に、あのヴィランの指が刺さっていた。





2024/02/10


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