第4節「神野区の悪夢」
side.オール・フォー・ワン
はじまりは、既に故人である配下にいた仲間が放った言葉だった。
『数年後、私の娘だった人物がこの世に生まれます』
その者は自分には前世の記憶がある、と言っていた未来予知の個性をもつ男だった。その個性は自分にとって都合のいい未来のみ見える個性だった。
なんと、前世で自分の娘だったという人間は元々遺伝子操作によって人工的に作られた子供であり、如何にも僕が憧れた『悪の魔王』の世界にありそうな話で、非常に興味がそそられた。
彼の前世は魔術師という者達が存在するファンタジーのような世界……と思えばそれはごく一部のようで、その世界ではサーヴァントと呼ばれる英霊を使って戦争なるものをしていたそうだ。
そのサーヴァントと呼ばれている英霊は個体差はあるものの、その強さは人間以上だという。
『その娘の力があれば、貴方様の望む力も世界も手に入れられるでしょう』
通常、サーヴァントは一人しか契約することができないらしい。サーヴァントと契約を続けるためには魔力と呼ばれるものが必要で、一人の人間では一人のサーヴァントが限界だからだと男は言った。
しかし、彼が予知した自分の娘は12のサーヴァントと契約しているという。これは、彼が前世で行ったことが関係しているという。
しばらくしてあの男が作ったという人間……『苗字名前』がこの世に生まれた。
聞いた話では12のサーヴァントがいると聞いていたが、どうやら彼女のもとには11のサーヴァントしかいなかった。
だが、一人少ないだけだろうと強さは人間以上の英霊が11人もいるのだ。こちら側に引き入れずにどうしろと言う?
密かに機会を窺っていたものの、サーヴァントの多さにその隙は全く訪れなかった。更に、彼女はヒーローの子供として生まれてきてしまい、完全に道を外していった。
オールマイトとの戦いで思うように動けなくなってしまい、苗字名前はヒーローへと突き進む一方。あの力を奪う事だけを考えていた時だ。……彼女のある秘密を見つけてしまったのだ。
それは雄英体育祭での出来事だった。
「洗脳、か。……なるほど」
とある生徒の個性にかかった苗字名前は、命令を受けただただ実行していくだけの機械と化していた。
理由は分からない。
しかし、その光景は僕を釘付けにするには十分だった。そして、こう思った___自分でこの兵器を操作したい、と。
素の彼女の能力は年相応、性別通りのものだった。
個性がなければ弱い…そんな人物だ。
はっきりいってその強力な個性は彼女には宝の持ち腐れであった。
「その力は、使うべき者へと渡すよ」
その日から彼女を僕は『姫』と呼んだ。11人の騎士に守られるだけのお姫様。
まあ、洗脳系の個性があれば上手く使えるだろうが、所詮は個性。個性であるサーヴァント達さえ手に入れば彼女はいらない。
……そう思ったのだが。
「なるほど、そう言う事か!英霊は個性ではなかったと!」
ずっと個性だと信じ込んでいたサーヴァント達は個性ではなかった。どうやら個性とは別の概念らしい。
「ならば、プラン2だ」
ストックは減ってしまっていたが、1つだけ洗脳系の個性がある。それを使って彼女を自分の思うがままに操ってしまおう。
この個性は自身を対象の人物にとって好ましい相手だと認識させ、自分の思うがままに操るための個性だ。少々扱うには癖のある個性ではあるが、その再現度は高く、口調や呼び方なども相手が認識している人物にへと変換されるのだ。
「苗字名前……いや、姫。君には僕等の仲間になって貰おう」
目の前で拘束された状態で眠らせている少女に個性を掛けた。
その直後、姫が目を覚ました。
「目が覚めたかい? 姫」
姫はこちらをおぼろげにおぼろげな様子でこちらを見つめた。そして、目を見開いてこう口にした。
「___ドク、ター……?」
ドクター
一体誰のことを指しているのかは分からないが、個性は機能しているようだ。
「僕のために戦ってくれるかい?」
姫に向かって手を差し出したが、そういえば拘束したままだったな。
そう思っていた時だ。
「!」
バギッ!!
姫をベッドに押さえ付けていた拘束具が音を立てて壊れた。……いや、引きちぎったと言った方が正しいか。
まさか金属製の鎖をこうも簡単に壊してしまうとは。……目の前にいるこの娘は、本当にあのか弱そうな少女なのだろうか。
姫は上半身を起こして僕を虚ろな目で見上げ、口を開いた。
「……貴方は?」
「僕かい?」
様子がおかしい。
先程僕を『ドクター』と呼んでいたのに、僕を誰だと問うてきている。……一体、どういう事だ?
「……もしや、貴方は……貴方が、私の指令者ですか」
マスター?
……あぁ、なるほど。如何にも兵器らしいじゃないか、ねぇ×××?
「さァ、仕上げと行こう」
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2024/01/01
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