第4節「神野区の悪夢」
side.緑谷 出久
「私は轟さんを信頼しています……が!!万が一を考え、私がストッパーとなれるよう…同行するつもりで参りました」
「八百万くん!?」
「八百万!」
八百万さんはそんな気持ちでこの場に来てくれたんだ。
僕は……僕はどうだろう。
「……僕も…自分でも分からないんだ。手が届くと言われて……いてもたってもいられなくなって……」
『なあ緑谷! まだ手は届くんだよ!!』
昼間、切島君の放った言葉は僕の気持ちを惑わせた。
検査の後、先生から渡された洸汰君の手紙で自分の行いは間違っていなかった事を認識させた。
「___救けたいと思っちゃうんだ」
僕はこの手で助けたい。かっちゃんを、名前ちゃんを!!
「………平行線か。……ならば、俺も連れて行け」
***
という会話をしたのが2時間くらい前。
現在僕達は、神奈川県の神野区に来ていた。
しかし、人多いなぁ……。
「さァどこだ八百万!」
「お待ち下さいッ!ここからは用心に用心を重ねませんと!!私達敵に顔を知られているんですのよ!!いきなり襲われる可能性も考慮に入れませんと!」
そうだった。
特に僕と轟君は向こうに覚えられているはずだし。
「分かった!うん、オンミツだ!」
「余計に目立ってんぞ、緑谷」
「しかし、このままでは偵察もままならんな」
「じゃあどうすんだよ……」
全員体育祭で顔は知られている。それは敵側も然り。
このままうろついていれば敵以前に民間人にバレる。
「そこで私、提案がありましてよ!?」
そう言ってソワリソワリ、と八百万さんが指を指したのは『治安の王道 鈍器・大手』というお店だった。
「オッラァ!!コッラァ!!」
僕が着せられたのは如何にもヤが付きそうな人達がしてそうな格好。
「なる程、変装か」
「そういう事ですわ」
「この格好はなんだ……?」
「後で教えっから!」
轟君はホスト風でカツラを被った格好、八百万さんはドレスに盛り髪といった派手な格好、飯田君は眼鏡を外して髪をオールバックにしたバーテンダーみたいな格好、切島君は髪を下ろして角をつけた格好……という、僕含め妙な変装に。
……これ、逆に目立たないかなぁ?
いや、繁華街だしこれはこれで目立たないかも……?
あれ、僕達かっちゃんと名前ちゃん救けにきたんだよね??
「皆さん、目的地の方角はこちらで……」
「お?雄英じゃん!!」
まさか、僕達が此処にいる事がバレて……!?
「オッ、オッラ……!?」
その声は僕達に向けられたものではなく、屋外に設置されていた巨大モニターに映る『雄英高校謝罪会見』に向けられたものだった。
僕達は人集りの中、そのモニターが見やすい場所へと移動した。
『この度、我々の不備からヒーロー科1年生28名に被害が及んでしまった事、ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り、社会に不安を与えた事慎んでお詫び申し上げます。まことに申し訳ございませんでした』
メディア嫌いの相澤先生が、記者会見に出ている……!?
『読売テレビです。雄英高校は今年に入って4回生徒が(ruby:敵:ヴィラン)と接触していますが、今回生徒に被害が出るまで各ご家庭にはどのような説明をされていたのか。又、具体的にどのような対策を行ってきたのかお聞かせ下さい」
体育祭開催の件から雄英の基本姿勢は把握しているハズなのに……言わせるのか!
悪者扱いかよ……!
『周辺地域の警備強化、校内の防犯システム再検討。“強い姿勢”で生徒の安全を保証する……と説明しておりました』
「は?何言ってんだこいつら」
「全然守れてねーじゃん」
「ヒーロー育ててる学校が敵にやられるか? 普通」
「何が保証だよ。保身の間違いじゃねーの?」
「がっかり」
結果が全て。
空気が淀んでいく……悪い方向へと流されていく。
***
学校の記者会見が流れたテレビがプチッと音を立てて画面が消えた。
そしてテレビを消した本人がこちらへと振り返る。
「不思議なもんだよなぁ……何故ヒーローが責められている!?奴らは少ーし対応がズレていただけだ!守るのが仕事だから?誰にだってミスの1つや2つはある!「おまえらは完璧でいろ」って!?現代ヒーローってのは堅っ苦しいなァ、爆豪君よ!」
「守るという行為に対価が発生した時点で、ヒーローはヒーローでなくなった。これがステインのご教示!!」
正直こいつらの話を聞いているのもつまんねェし、この拘束を外して探しにいかねーと。
……ここに連れて行かれる前に別の場所へと飛ばされた幼馴染を。
けど、この状況……どうやって打破する?
![](//img.mobilerz.net/sozai/1646.gif)
2023/12/04
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