第4節「神野区の悪夢」


side.アクア



「……本当にいないのね」

「ああ」


……家の中がこんなにも広く寂しいと思った事があっただろうか。


『お帰りなさいっ。お父さん、お母さん!』


自分そっくりの容姿を持つ愛する娘。
……先日、林間合宿へと向かった名前はヴィラン連合・開闢行動隊と名乗る者達に連れ去られたと伝えられた。良く名前が出てくる男の子…爆豪勝己君と共に。

家にはあの子の個性であるサーヴァントという存在がいるはずなのに、誰一人もいなかった。
前に言われたことがある。個性である為か、名前が気絶した場合意識がなくなってしまうので彼らは一度消滅してしまうらしい。

名前が成長するにつれて休暇を入れる頻度を少なくし、小学生高学年になる頃には仕事に集中するようにして家に帰る機会が減っていた。
だから、あの子から聞いていたその場面に一度も出くわした事がなかった。
……これが、その場面なのね。

名前の個性であるサーヴァントと呼ばれる存在は、それぞれ個性的で面白かったり可愛らしかったり……彼らが私達の前でも明るく楽しそうな姿を見せてくれいるのは名前の存在があるからだと。


「……やっぱり、ヒーローを目指すことを諭すべきじゃなかったのかしら」

「いいや、僕達が諭したわけじゃない。……あの子が自分の意思で目指すと言ったんだ。君は直に聞いたんだろう?」

「……ええ」



『私ね、ずっとサーヴァントみんなに守られてきたの。……私に戦える力があれば、お別れしなかったかもしれない人がいたの。……だから、戦える力があるのなら私は戦えるようになりたい』

『私、守れるなら死んだって構わない。……私の所為で誰かがいなくなるのは、嫌だ』



マーリンさんも言っていたように、名前は自己犠牲の精神が強いという。それに、あの子は前世で寿命を迎えたわけではなく誰かに殺されたと言っていた。
一度体験した所為なのか、死に対してあまり恐怖の感情を持っていない気がする。

普通なら一度殺された記憶を持っているなら怯えると思うんだけど……いや、あの子は自分で自分の事を“普通じゃない”って言っていた。

あの子の前世の出世は聞いた。……すごく気分の悪い話だった、普通ではない。
遺伝子操作による出世、薬品投与による改造……それ以前に人間として見られていなかったという事実。


……だから、あの子に本当の愛というものを知って欲しくて、自分なりに愛情を注いできた。


名前は雄英高校に入学してすぐにヴィランに出会い、戦う事を経験した。
まあその前にもヘドロ事件っていう名で名前は勝手に個性を使ってたみたいだけど、その事実は世間に知られていない。
どうやら名前の個性であるサーヴァント…ジャック・ザ・リッパーという少女のお陰らしい。すごいな、サーヴァントって。

ただ戦う事を知っただけなら良かったけれど、どうやら名前についてヴィランが知っていたという。……体育祭後ならまだ理解出来る。しかし、体育祭前に既に名前の存在を、個性であるサーヴァントと呼ばれる存在を知っていた。

名前は前世の記憶を持っていると同時に亡くなった直後の精神年齢を持っていた。だから普通の子よりは手は掛からなかったし、話も理解できる子だった。まさに見た目は子供、頭脳は大人というどこかで聞いた事のあるフレーズの様だ。


「名前は優しくて、誰かの為に命を懸けられる子よ。……あんな子がヴィランの手に堕ちる訳がないわ」

「あの子は強い、心も個性も。……ヴィランに負けないさ」


もしあの子が折れそうになって、悪へと落ちそうになったとしてもきっとサーヴァントかれらが正しき道へと連れて行ってくれる。
……前世の名前を他の誰よりも知っている、と言っていたアーサーさんやサーヴァントみなさんが必ず名前を導いてくれる。


「不安なのは分かる。何も分からないままだったとしても今日は流れ、終わる。……今、僕達がやれる精一杯をやるしかないんだ」

「……そうね」


紗菜は雄英生の治療に借り出され、かなりお疲れのようだ。
彼女の個性は強力で且つ大怪我にも対応しやすい故に、色んな病院に借り出されているのだ。
今回重軽傷者が出た雄英生と今回の林間合宿で協力していたというプッシーキャッツのメンバー一名の治療と大変だったようだ。


「メディアはどう思っているのかしら……」


つい最近、雄英高校が夏の長期休暇に入る前。
名前が僕達アクアとサナーレの実の娘であることを公表した。

勿論疑いの声はあった。個性が二人の個性のどちらも継いでいないから、と。しかし、納得される事でその声は段々と小さくなった。まだ疑いの声は残っているけれど、これから納得して貰えるように頑張らないと。


ヴィランの目的は……名前と勝己君を何の目的で誘拐したのか。気になるところだね」





2023/11/05


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