第2節「林間合宿 前編」



「あれ、名前ちゃんに君、ランサーさん!こんな所で何してるの?」


ずっと首を横に振っている焦凍君とカルナ。
どうしても知りたい私は、二人から聞きだそうと奮闘していたとき、後ろからいーちゃんの声が聞こえ振り返った。


「なっ、は!?はだっ、えっ!?」

「あっ!!ごめっ!?」

「落ち着け緑谷、名前」


まさかバスタオル1枚とは思わず、びっくりしてしまった。
なるべく見ないように、と別の所を見て紛らわす。


「……裸見たくらいで動揺するな、私!」


彼らに比べたら私は歳上だぞ!そもそも前世では男性の上半身なんてよく見てたじゃない!
……だって、どのサーヴァントも男女構わず露出度高いんだもん……。
自分に渇をいれ、いーちゃんに向き直る。

いーちゃんは少し照れているのか顔が少し赤い。
ごめんね、私が思いっきり大声出しちゃったから……。


「それよりいーちゃん、いつまでもそんな格好じゃ風邪引いちゃうよ?お風呂入り直しておいでよ」

「うっ、うん!!!」


明らかに動揺してます、って返事をしていーちゃんが私達の横を通り過ぎた。
……よし、これが大人の対応。

しかしいーちゃんの身体、思ってた以上に引き締まってたなぁ……。
でもかっちゃんの方が筋肉質かも?
なんて思ってた時「名前ちゃん!」といーちゃんに呼ばれた。


「あの……お風呂上がった後、ちょっといいかな?……話したい事あって」

「話したい事?」


少し困ったような表情でいーちゃんが私にそう尋ねた。
別に断る理由がないので「勿論」と了承の返事を送った。


「ほらほら、早く行かないと!明日から本格的に合宿始まるんだし、風邪引いたら元も子もないよ」

「う、うんっ」


浴場へと戻っていったいーちゃんを見送り、焦凍君とランサー、私だけがその場に残った。
……私で良かったよ、あの格好でいーちゃんとエンカウントした女子が私で。
他の子だったらどんな反応されてたか……。

しかしいーちゃんが話したい内容は何なのだろうか。
部屋に戻るまでそのことが引っかかっていた。



***



就寝時間まで女子のみんなとゆっくり過ごしていた時、部屋の扉が開いた。
さっきも男子達が遊びに来てたくらいなので、また誰かが遊びにきたのだろう。


「名前ちゃん」

「! いーちゃん」


扉の隙間からいーちゃんがヒョコッとこちらを覗いていた。
どうやら女子部屋に緊張しているらしい。


「ちょっと行ってくるね」

「何々〜?そういう奴?」

「そういう奴ってどういう奴!?」


ニヤニヤしている響香ちゃんにそう返して、いーちゃんの元へ駆け寄る。
先程言っていた『話したい事』だろう。
「行こっか」と声を掛け食堂へと向かった。



***



「それで、話したい事って?」


現在、食堂
談話室みたいな場所として解放されており、自由に出入り可能なので此処で話す事に。
ほとんどの人は部屋で過ごしている為、現在食堂には私といーちゃんだけだ。
……いや、もしかしたら霊体化したカルナが近くにいるかも。


「……もし、名前ちゃんは両親が物心つく前にいなくなったら、どうなっていたと思う?」


「あっ、不躾な質問でごめんっ」と慌てた様子でいーちゃんが付け加える。
今更いーちゃんが悪意を持って質問するなんて事思わないのに。
「理由がある事くらい分かるよ」と声を掛けると、ぎこちなく笑みを返してくれた。


「……そうだね。もし両親が物心つく前に死んでしまったら、今の自分にはなっていないと思う」

「……例えば?」

「そこまでは分からない。やっぱり、実際に体験しないと想像できない」


私の場合、その出来事をたどった場合の未来を想像するには多すぎる。
例えばあの時前世の記憶が戻らず、両親が何らかの出来事により死んでしまった場合。
今のように前世の記憶が戻り、両親が何らかの出来事により死んでしまった場合。


「なんか人間味のない返し方でごめんね。……でも、悲しくて、寂しいのは変わらないと思う」


今の私には支えてくれるサーヴァント達がいる。
もし、私が本来の道を外れてしまった場合彼らが導いてくれると思う。
……あの時、ドクターを失って誤った道を歩こうとした私を導いてくれたように。


「どうしてこんな事を?」


とてもじゃないがいーちゃんからは聞かない話だ。
その理由が知りたくて隣に座る彼に問う。


「洸汰君の事で、ちょっと」

「! あぁ、マンダレイさんの従兄弟の息子さん」


どうやら私にこの事を尋ねたのも洸汰君絡みだったようだ。
しかし私と何が通ずるのだろうか?


「洸汰君の両親、名前ちゃんと同じでプロヒーローなんだ」

「! そうなんだ」

「でも、二年前に両親は殉職してて……」


意外な共通点だ。
だからいーちゃんは私に問うてきたのか。


「洸汰君はヒーローというものを、個性というものを否定している。……さっきマンダレイから聞いたんだ」

「……」

「もし名前ちゃんが洸汰君みたいな目に遭ったらどうなっていたのか気になったんだ。君は昔からあまりこの超人社会に関心がなかったからさ」


本来ならこの個性と呼ばれる異能力に対して関心があり、ヒーローに憧れるのが普通なのだろう。

私は個性というものが存在しない世界を知っている。
本来ならその個性というものを知らないのだから関心があって当然なのに、私はその逆であまり興味がない。
それは私の個性がサーヴァントみんなと関わり深いものだからなのか、強さというものに固執していなかったからなのか自分でもよく分からない。


「そっか。……洸汰君が昔の私に似てると思ったんだね」

「まぁ、そういう事になるのかな……?」


洸汰君の事情を聞いた後だからなのか、少しだけ考えが変わってしまった。
もし私が洸汰君と同じような状況になってしまった場合、か……。


「洸汰君の話を聞いて少し考えが変わった。もし、昔の私があの子と同じ目にあっていたら……だよね?」

「うん」


食堂の天井を見上げ、目を閉じる。
あの頃は両親の存在を心の底から信じていなかった。
今では憧れを抱く程に尊敬し、信頼し、信用している。
その経緯が無かった場合、私は……。


「もしかしたら、道を踏み間違えていたかもしれないね」


だってあの頃は、個性を使う事にこんなにも制限されている事を不思議に思っていたんだから。
天井からいーちゃんに視線を移しながらそう答えると、少し目を丸くした彼を視線が合った。


「でも、人は誰かがきちんと正しい道へ導けば、ちゃんと正しい道を歩むよ。……だから、その状況に陥ったとしても、手を取って歩み寄る事が大切なんじゃないかな」


ドクターが私にそうしてくれたように。
……あの時、あの人が私に手を差し伸べてくれなかったら今の私はいない。
人は正しい道を指し示せば必ず正しい存在になれる。
人間味のなかった私が変われたんだもの、洸汰君も変われるよ。
何かきっかけがあれば、必ず。





2023/02/01


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