第13節「嫌な予感」
「おかあさん」
「どうしたの、アサシン?」
「あれ食べたい」
ジャックがくいっ、と服の裾を引っ張る。
何事だと思いジャックの指の先を視線で追うとそこにはクレープ屋が。どうやらお腹が空いたらしい。
確かにちょっと歩き疲れたし、クレープでも食べて休憩しよう。
私は財布を出して、お母さんから預かったお金を確認する。……うん、全然足りるね。
どう考えてもありすぎである札束に苦笑いが出る。
メニューを見て、どれにしようか考える。
「セイバーは良いの?」
「僕はいいよ。二人は選んだかい?」
「わたしたちはこれにしたよ!」
アーサーはクレープはいらないらしい。……割と食べる方なのに。
で、ジャックは定番の定番、イチゴと生クリームのクレープを選んだ。
私はチョコと生クリームのクレープを選んだ。
「すみません、このクレープをそれぞれ一つずつ」
「かしこまりました!」
定員さんにアーサーが声を掛け、いつの間にか私の手から奪ってた財布で支払いを済ませる。
……これが彼が稼いだ金だったら格好いいのだが、残念ながらサーヴァント達は働いていない。
「本当に良かったの?」
「んー…、じゃあ」
アーサーの顔がこちらに近付く。
綺麗な青い瞳が至近距離で私を見つめる。
「君のクレープを一口頂こうかな」
全く悪気のない顔で私を見つめる目の前の騎士王。
後ろから押されたらキスできてしまう距離。
「ち、近いっ」
「おや、クレープ出来たみたいだよ」
何事も無かったかのように離れ、クレープを取りにアーサーがベンチを立つ。
彼の後を追うようにベンチを立つと、ジャックも着いてくる。
「お待たせ致しました!」
「ありがとうございます」
アーサーが店員さんからクレープを受け取り、私とジャックに渡す。
……その光景を見ていた店員さんが、とんでもない言葉を放った。
「家族でお出かけですか?」
恐らく営業スマイルだと思うが、とてもいい顔で。
……え?
「はい。『嫁』と『娘』です」
その言葉に対し、アーサーは綺麗な笑みではっきりとそう答えた。
………は?
「セイバー?」
「さ、取られる前にさっきの場所に戻ってクレープ食べようか」
「はーい!」
「セイバー!!?」
どう見てもヤバい家族だって見られたよ!?この見た目で大人は無理があるって!!
「何言ってるのよ、セイバーッ!?」
「僕が旦那では不満かい?」
「そっ、そうじゃなくて……! あ、からかわってるんでしょ!!」
「からかっている、か。……今はそれでいいよ」
アーサーの発言に私は首を傾げるしかなかった。
「さ、君のクレープを先に……」
「あぁっ!?」
私が持っていたクレープを一口囓ったアーサー。
これはどう見ても間接キスを狙って……
「最初からこれを狙ってたって訳ね」
「バレてしまったか」
私の言葉に隠す事なく肯定した目の前の騎士王。
意外とイタズラ好きだったのかな。
そう思いながら、アーサーが食べた事で出来た出っ張り部分をかじった。
***
「いーちゃん!!大丈夫だった!?」
「大丈夫だよ」
敵が出たと、お茶子ちゃんが警察に通報した事で、ショッピングモールは一時的に閉鎖。
私達A組と警察、プロヒーローだけになった。
通報した本人のお茶子ちゃんに詳しく聞くと、敵連合の『死柄木 弔』が現れたと言う。
彼女が見た時、いーちゃんは死柄木弔に首を掴まれていたらしい。
「名前ちゃんになんとも無くて良かった」
「?どうして?」
「……名前ちゃん。君は狙われてたんだよ?USJの事、忘れたの?」
「……!」
そうだった。
濃い日を過ごしているうちにすっかり忘れていたが、私は一度狙われていたのだ。
……いや、正確に言うと狙われているのはサーヴァント達だ。
「セイバー、アサシン。誰か後を付けてた?」
「ううん、誰もいなかったよ」
「特に感じなかったよ」
気配感知のプロ(エルキドゥ)は本日お留守番でこの場にいないが、2人が言うならきっと後は付けられてなかったんだろう。
「……名前ちゃん。出かけるときは絶対にサーヴァントの人と一緒に、だよ」
「心配はいらないよ、ミドリヤ君。我々はマスターを一人にする気はないからね」
「うんっ!」
いーちゃんの言葉に、アーサーとジャックがそう答える。
サーヴァントの強さはマスターに依存するが、強力な戦力である事に変わりは無い。
「これは、何かがあるかも知れないな」
「……セイバー?」
「マスター、林間合宿とやらで僕等をどうするつもりなんだい?」
「えっと……」
個性強化の合宿だ。
周りに先生方も同伴だし、多くの戦力を連れてしまえばその分私の負担が大きくなり合宿にならないかもしれない。
なので、連れて行くのは一騎のみだ。
「その口ぶりだと、既に誰を連れて行くのか決まっているようだね」
「うん。本人から了承を貰ったからね」
「なんだ、僕じゃないのかい?」
「ごめんね。ちょっと個人的に二人っきりで話したい事があって。あの子じゃないと話せない内容だから」
「ふむ、そういうことなら」
最近ふとした時にあのサーヴァントの事を思い出すのだ。
忘れられないあの光景や、彼と共に過ごした思い出を頻繁に思い出す。
誰よりも彼だけがあの子について話せるのだ。
だから、もし時間があるのならこの機会に少しだけあのサーヴァントについて話したいんだ。
第13節「嫌な予感」 END
3章へつづく
next:あとがき(仮)
2022/2/17
prev next
戻る