第13節「嫌な予感」



次の日


「おっ、苗字ー!こっちこっち!!……って」


私に気付いた切島君がこちらに大きく手を振る。
そして私の背後にいる人物をみて固まった。


「い、イケメンだ……!」

「やあ、久しぶりだね」

「セイバーさんだ!」


うん、私も思う。
とは言っても護衛で学校に来たことがあるし、初めましてではない。


「苗字の子供(仮)!!」

「だから違うってば!!」

「わりぃわりぃ、アサシンちゃんだろ?」

「そうそう。お願いだからその呼び方止めて上鳴君……心臓に悪い……」


以上で分かったと思うが、昨夜のじゃんけんに勝利したのはアーサーとジャックである。
それまでの経緯を紹介しよう。



***



『……九人いる中、一人抜けだとっ!?』

『悪いね』

『おのれ騎士王!!』


まず一抜けしたのはアーサー。
恐らくだが、彼の保持スキル『直感』が働いたのだと思う。
四郎とギルが不満そうにぶーぶーと文句を言っている。
しかし今日の四郎はやけにノリノリだな。あ、キャラ崩壊してるねって意味ね。


『9人のライバルがいる中、まさか一人だけ勝つなんて……恐ろしや、直感』

『あと一人ね』


ジャンヌと私しか座ってなかったソファにアーサーが腰を下ろす。
空いてたのは私の左隣なので、そこにアーサーが座った。

しばらくじゃんけんが続いたが、ついに勝敗がついた。
二人目は……


『おかあさんっ勝ったよ!褒めて褒めて?』

『ジャック……!貴女はすごい子よ!!』


こちらに向かって両手を伸ばしながら駆け寄ってくるジャックに、たまらずソファから下りてジャックの身体を受け止めるかのよう私も両手を広げる。
感動の再会みたいな抱擁であるが、いつもどおりのギューである。


『余の方が!!幸運ランクが!!高いのに!!何故だ!!?何故なのだああああッ!!!』

『ネロうるさい、大人げないよ』

『余も、奏者とデートがしたいっ!!奏者、余も連れて行け!!』

『最初に言ったじゃん。二人だけって』


負けた事が相当悔しかったのか私に泣きつくネロ。
……もう、わがままな皇帝様だなぁ。


『じゃあ今度の土曜日にデートしようか』

『……!絶対だぞっ、奏者っ!!』



***



と言う経緯があり勝者はアーサーとジャックである。
しかしみんなそんなお出かけしたいのか。
これ仮にヒーローになった時、休み少なくて構えなかった場合文句言われそう……。


「ごめんね切島君、かっちゃん家から出てこなかった」

「連れてこようとしたんだな……」

「うん、家近いからね」


切島君にかっちゃん連れてこれませんでした報告をすると、苦笑いでそう返された。
全員誘ったが、別に強制ではないのでここにいない人もいる。
かっちゃんはただ行きたくなかっただけだろう。

焦凍君は御見舞いかな?
お互いのメッセージアプリの連絡先を交換しているので、偶にメッセージでやりとりしている。
律儀なのか分からないが、御見舞いに行ったことを報告してくるのだ。なので此処にいない理由も何となく想像できる。

しかし、雄英体育祭は本当に色んな人が見ているんだと改めて実感した。
色んな人が私達を見て「雄英生徒だー!」と指を指されるのだ。


「うー…」

「アサシン、嫌だった?」

「嫌だけど、おかあさんといたいから我慢する……」

「うぐ……っ」

「名前ちゃんがダメージ受けてる!?」


私の腰に細い腕を回し、こちらを上目遣いで見上げるジャックの可愛さは世界一だと思う。
親バカだって?うるさいな、可愛いんだから当たり前でしょ!?


「苗字は何買うの?」

「結構多くて、メモして来たんだ」

「わーえっらいなぁ!私とりあえず欲しいもの買うつもり!」


三奈ちゃんと雑談していると、切島君がみんなの目的を考慮してとりあえず自由行動にしようとなり『三時に集合』する事に。


「じゃあ行こうか、ナマエ」


こちらを振り返って手を差し伸べるアーサーは、本当に『騎士』という言葉が似合う。


「……うんっ」


差し伸べられた手を握ると、ぎゅっと握り返された。


「おかあさんっ」


もう片方の手はジャックが腕ごと抱きつく形で埋まった。
……こんな小さな幸せは、前世では味わう事はなかった。できなかった。


「じゃあまずは服を見に行こうか」

「わたしたちもお洋服欲しい!」

「勿論。アサシンの服も買っちゃおうか!」

「ナマエは本当にアサシンに甘いね」


しかしこの後、この幸せな時間を壊す自体が起こる。
この時の私達はまだ気付くどころかそんなことすら考えなかった。





2022/2/16


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