第3節「雄英体育祭:後編」



轟君がいーちゃんに向かって走り出した。
……しかし、轟君はあんなに足が遅かっただろうか。
障害物競走ではいくら私がジャックに擬態していたとはいえ、結構早かったような……。


「……!」


よく見れば轟君の右半身に霜がある。
もしかして、あれが轟君の限度というもの……?


「脆だーッ!!生々しいの入ったーッ!!」


いーちゃんが轟君のお腹に拳を入れたのだ。
残念ながら場外にはならなかったが、それでもダメージは入ってる。
……殴った方のいーちゃんにも。

フィールドには所々血が散乱している。……恐らくいーちゃんの血だ。
あの腫上がった指から出血しているんだろう。

昔のいーちゃんからは考えられない超パワーの個性。
……あんなボロボロのいーちゃんを見るのも初めてだ。


「……見てられないっ」


彼のなりたいヒーロー像はあんなボロボロなのだろうか。
純粋に憧れ続けている彼を知っているから、フィールドを直視する事ができない。
そう思って顔を手で覆った瞬間だった。


「あつ……ッ!」



熱風が観客席に直撃した。
その熱風の正体は……


「轟君から……炎が……?」


彼の個性は氷だけではない。
氷と炎を持ち合わせるとんでもない個性の持ち主だったんだ。



***



結果を言うと、3回戦…準決勝に進んだのは轟君だ。
後半は展開の早さ、大きな爆発でフィールドが見えなかったのだ。
とりあえず分かったのは、今まで頑なに使ってこなかった炎の方を轟君が使ったと言う事だ。

いーちゃんの身体はかなりボロボロで、すぐにリカバリーガール先生の所へ運ばれた。
先程お茶子ちゃんと梅雨ちゃん、飯田君と峰田君と一緒にいーちゃんの元へ行ったのだがすぐに追い出されてしまった。

で、2人の試合が終わり、補修工事が完了してすぐの試合は……


「よろしくね、飯田君」

「こちらこそ」


2回戦 第2試合
私の出番だ。相手は飯田君。


「スタァーット!!!」


開始の合図が下がった。
右腕に令呪を浮き上がらせて、個性発動の意思を示す。


「擬態、エドモン・ダンテスアヴェンジャー!」

『……良いだろう』


その言葉を口にした刹那、エドモンの魔力が流れ込んで来る。
魔力が変化していくのが分かった。

目を開けると、飯田君はクラウチングスタートの構えをしていた。
両手に青黒い炎を生成し、飯田君の出方を窺う。


「レシプロバースト!!」

「っ!!」


間一髪……ッ!
しかし、思っていたより早いっ。
飯田君に向かって炎を飛ばすけどちっとも当たらない。
それよりも躱しながら気になっていた事が。


「飯田君、どうして攻撃してこないの!?」


そう。
飯田君は先程から私に攻撃する素振りがないのだ。
気のせいでないなら、私の背中を狙っている気がする。


「女子に蹴りを入れるなんてできない!!」


私の問いに飯田君はそう言ったのだ。
女子だから……か。


「ふふ……っ、あっははははッ!!」


まさかそんな理由で攻撃してこなかったとは……。
優しいね?飯田君。でもさ……


「その考え、後悔するよ」


両手を飯田君に向けて構え、炎を飛ばした。
それを飯田君は飛んで躱した。


「空中に飛んだのは……間違いだったね、飯田君!」


君が入れられないのなら、私が入れてあげよう!
空中に飛んだ飯田君に向かって蹴りを入れる。


「まだまだいくよッ!!」


両手に炎を生成し、飯田君に向かって飛ばす。
この炎は本人に当てるわけじゃない。”目眩まし”だ。


「くらえええぇッ!!!」


今までの中で高火力の炎を飛ばす。
直撃した飯田君は場外に吹き飛ばされた。


「飯田君場外!3回戦進出、苗字さん!!」


その言葉と同時に擬態状態を解除する。
……なんだろう、さっきエドモンの笑い方が移ってた気がする……。
擬態したサーヴァントの性格とかそういうのに引っ張られるのは分かってるけど、こんなに引っ張られるものだったっけ……?


「……っ」


それに、また魔力消費が酷い……。
今までこんな事なかったのに、どうして急に……。

そんな事を思いながら、会場を後にした。





2021/07/10


prev next

戻る














×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -