地下鉄のはなし

ねえ
あなたは知っていたかしら
地下鉄で
毎朝一緒になる二人を

たぶん
カップルだったのよ
だって
あんなに幸せそうだったわ

私たち
いつも同じ車両に乗るから
よく
毎朝一緒になる人たちがいること
あなたは知っていたかしら

知らないわよね
あなた
いつも寝てるもの

あなたは
いつも
私に眼鏡を預けて
寝るのよね

気づいてないかもしれないけど
これってあなたの癖よね

私ね
ときどき気になるの

あのカップルに
私たちは
どう映っていたのかしら
って

聞けるなら
聞いてみたいわ

でもね
今は彼らと同じ車両じゃないから
聞けないの

あなたは知らないでしょう
そんなこと
だって
いつも
寝てるもの

あのね
彼ら
二年前の冬に
別れちゃったのよ

たぶん
彼氏からふったんだわ
だって
彼女の方がね
しばらく一人で
この車両に乗ってたの

ときどき
私たちを見てたのよ

でも
春になったら
彼女の方も
いなくなっちゃった

あなたは知らないでしょう
そんなこと
だって
いつも
寝てたもの

だからね
あの日も
あなた
いつもみたいに
寝てると思ったの


ちゃんと
あなたの眼鏡
持ってたのよ

落とさないように
なくさないように

なのに
あなた
めずらしく
私の肩にもたれかかるから
びっくりして

眼鏡
落としちゃったの
そのとき
ちょうど私も眠たかったのよ

これ
秘密にしとくつもりだったんだけど
どうせ
あなた
今も寝てるから
聞いてないでしょう

あれから一年たったのよ
天気予報でね
言ってたの
南の方では
もうすぐ桜が咲くんですって

知ってた?
知らないわよね
今も寝てるもの
あなた
いくら寒いからって
冬眠中のくまじゃないのよ

いつも
寝てばかりいるんだから
いったい
いつになったら
起きるのかしら?

冬眠ならまだ良いわ
だって
春になったら
起きるでしょう?

なのに
あなた
これから
ずっとずっと
私が永遠に眠るまで
ずっとずっと
私が永遠に眠ったあとも
ずっとずっと
寝てるだなんて

だめよ
だって
私が
あなたを起こすのよ

私に
眼鏡を預けて
寝るのが
あなたの癖で

あなたを
起こすのが
私の癖なのよ

ねえ
たいへん
もう終点よ
起きなくちゃ




8/6(Fri)
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