「志摩、お前は何のために予備校通ってんだ?絵を描く気がないなら学校辞めろ」





(…あかん、やっぱり鬱や)





予備校の先生は決して厳しいと言うわけではなかった。寧ろどちらかというとユルい。講師である立場の人間であるにも関わらず、髪色はツートンな上に露出度の高い服の着用。喋り方にしても舌ったらずで、相手をおちょっくているかの様だった。
そんな講師に真面目な顔と声でキッパリとお叱りを受けては、ダメージは相当なもの。


(こんなヘコんだ日に、奥村くんの笑顔を見る事ができたら幸せなんやけどなぁ)


そこでハッと志摩は気づく。
「相手は男であって自分も男。何を考えているんだ」と。「これは恋なんかじゃない」そう必死に自分に言い聞かせていた。





◇ ◇ ◇





「え?それって恋だろ」
「ぶっ!」
「う、わ!志摩汚ねっ!ご飯粒飛んだバカ!」


お昼休み。志摩は青みのかかった黒髪の少年と、机を向かい合わせにしてお弁当を食べていた。
志摩の前に座る少年は、志摩が飛ばしたご飯粒を丁寧にティッシュで拭き取り、くしゃくしゃっと丸めた。そしてそのまま、手にしたティッシュを何の躊躇もなく志摩の机へと乗っけた。
「ゴミを何でこっちに寄越すんやろ…」と思いはしたが、志摩は特に何も言わなかった。


「だって年中その店員さんの事、考えてんだろ?」
「ね、年中やないって。つか、向こうも男やし、ラブ的な意味じゃなくて…」
「え!志摩の好きな人って男なのか?!」
「シッ、声が大きいて!」


お構い無しに喋る口を黙らせようと、志摩は思わず席を立ち、身を乗り出して燐の頬を軽く叩いた。それが思いの外痛かったのか、「いてっ」と燐が小さく声を洩らした。しかし、志摩はこれっぽっちも心配しなかった。
志摩が静かに着席した瞬間、やけに燐が真剣な顔をした。


「好きになったら男とか女とか関係ねーだろ。だから…上手く言えないけど、俺は志摩の味方でいてえんだ」
「燐くんっ……!」


燐の言葉を聞いた志摩は、何故だか無性に彼に逢いたいと思い、胸の奥底が熱くなった。


(これ、やっぱり恋って自覚すべきやないですか?)





- end -



2011.08.21


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