「いらっしゃいませ。こちらでお召し上がりでしょうか?」
「えっ、あ、はい。えーっと、アイスカフェオレお願いします」
「アイスカフェオレ一点のお召し上がりで、320円でございます。少々お待ちくださいませ!」


軽くお辞儀をして微笑むと、彼は取り揃えに入った。割と頻繁に利用するカフェで志摩は初めて目にする彼の接客に、一瞬にしての心を奪われた。
丁寧に一つ一つ仕事をこなしていく彼の動きはとても軽やかで、見ていて清々しいとまで言える。普段なら携帯を弄って商品が揃うのを待つが、今日は店員の身のこなしに見入ってしまった。
彼はなんて名前なんだろう。
さすがに「君、名前ていうの?教えてくれへん?」なんて、いきなり聞くのは失礼にもほどがある。さて、どうしようか。と思ったが解決策が直ぐに思い浮かんだ。


(そ、そや!名札!)


「大変お待たせいたしました!お先にお会計をさせていただきます」
(名札…えっと、お、くむら?彼は奥村くんっていうんやな!)
「大変お待たせいたしました!ごゆっくり、お召し上がりくださいませ!」
「あ、あぁ、はい。ありがとうございます」


差し出されたトレーを両手で受け取り、もう一度だけ奥村という青年の顔を盗み見た。やっぱり彼は笑顔だった。


(あぁ、卑怯や…この笑顔!)


席に座ってからも食事を他のお客に届けたり、フロアの掃除をする奥村を志摩は目で追っていた。気をとられ過ぎたのか、手が飲み物に当たってカフェオレを机の上にぶちまけてしまった。
幸いな事に殆ど飲み干していたので、机の上に置いてあるナプキンだけで後片付けできたのが救いだ。


(…落ちつき無さすぎやろ、自分)


奥村くんと何かが縁で知り合えたら、そんなイフ話を志摩は想像し始めた。


(もし知り合えたら、「カフェの店員」じゃない奥村くんの笑顔を俺は見られるわけで…って俺は変態なんか?!俺は男で向こうも男。男同士の恋愛なんてありえへん!いくら落ち込んでる時期っていっても、男に走るなんてあかん俺!)


志摩の隣の空いた机を拭きに奥村がやって来ると、無意識に志摩は胸を高鳴らせた。ちらりと彼を再び伺う。すると不思議と目が合って微笑まれた。無駄にわたわたしてしまって、でもシカトをするのもどうかと思い、志摩も軽く会釈をした。


(なんちゅーか…これからの事、ちゃんと考えよ…かな)


先程倒したカップに僅か残った細かい氷を口に含み、それを砕きながら席を立ち上がる。
奥村を筆頭に他の店員の「ありがとうございました。またお越し下さいませ」の声に背を押され、志摩はカフェを後にした。





- end -



2011.08.06


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