肩にかけた予備校鞄を今一度かけ直し、店内に足を踏み入れた。
俯き気味の志摩とは打って変わって、「いらっしゃいませ」と、明るい声が店内に響く。
「いらっしゃいませ、なんてマニュアルなくせに。本当に心の底から歓迎なんてしてへんのによく言えたもんやな。一度でええから心底歓迎されてみたいわ」と、また一息で言えてしまいそうな勢いで心の中で毒づいた。
鞄を禁煙席の座席に置いて、財布だけを持ってレジへ向かう。


(あかんレジに行って注文するこの動作すらかったるい…いつか全飲食店がファミレスみたいに呼び鈴対応になる事を切に願うわ…)


そんな半ば不可能な事を願っている間に、レジの順番が志摩に回って来た。


「いらっしゃいませ!」


ここで初めて、志摩は店内に入っから店員の顔を見た。いつもだったらそんな事はせず、アイスカフェオレを頼んで(たまにサンドイッチやケーキやらも注文する)会計してハイ終わり、であった。


しかし今日は違った。まず、店員の声質がいつもと何か違ったのだ。それで思わず顔を上げた。
声の主の店員は清楚なイメージ漂う短めの黒髪に眼鏡をかけた青年。深い緑色をした双眼には思わず釘付けになった。
引き込まれたのは外見だけではない。何と言っても、「お客様、お待ちしておりました!」オーラが溢れ出ている口調に笑顔。
第三者からしてみたら、そんなの思い込みだ。と、思うであろう。けれど、そんな他人の言葉は今の志摩にはどうでも良かった。


(俺…今めっちゃ歓迎されてる…!)





- end -



2011.07.31


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