[SIDE:Yukio]


『りんーっ、おそといこう!おそと!』
「おっ、じゃあ今日も剣の練習相手のなってくれっか?」
『れんしゅうあいて!あそぶあそぶ!』
「よーし、じゃあ外行くか。雪男ー、ちょっと外行ってくるな」

兄さんは直ぐ様ジャケットを羽織って外に出る準備をする。僕はベッドに腰を掛けて読んでいた本を閉じて脇に置いた。


「あんまり遅くなったら駄目だからね」
「おまっ、俺そこまでガキじゃないっての」
「うん、そうだね。分かった分かった。はい、行ってらっしゃい」
「ちぇー」


口を尖らせ「これだからホクロメガネは…」と、ブツブツ文句を垂れながら肩にクロを乗せ、手には木刀を握り部屋を出る兄さんの背中を僕は見送る。扉が閉まると一つ、溜め息が出た。

僕達だけ特別に二人使いにしてもらった寮の部屋。しかし最近、新しい住居人が増えた。いや、正確に言うと人じゃないけど。
クロが来てからというものの、兄さんはめっきりクロに構いっぱなしだ。幾ら同じ部屋だからといって、そこに住む者同士、生活までが同じかと問われれば答えはNOになるのは分かっている。
現に僕は僕で学園の生徒としての勉強や課題を、同時に塾講師として授業の準備をこなさなくてはならない。


違うからこそ、僕は少しでも兄さんと同じ時間を共有できるなら共有したい。そう思ってしまう。
こんなのは僕のエゴ。分かっている。でも、兄さんに気に掛けてもらえないのはやっぱり淋しい。頭では理解しているが、心が理解してくれない。


「僕も重症だな…」


呟いたとこで誰かが反応してくれる訳では無い。でも口に出さずにはいられなかった。
眼鏡を外し、ベッドに倒れ込んだ。特に眠たい訳ではないけれど、渦巻く感情を遮断したくて瞼を閉じた。





[SIDE:Rin]


最近、雪男とあまり会話をしていない。
本当は色々と話したい事がある。でも雪男が忙しいの知ってるから…だから雪男の時間を邪魔したくないが故に、話しかけるのを躊躇している自分がいる。


『りんー、ぐあいでもわるいのか?』
「えっ、何でだ?」
『なんだかりん、うわのそら。どっかいたい?』
「あぁ悪い悪い。ちょっと考え事してた。ごめんな?」
『かんがえごと?それわるいのか?わるいならおれが退治する!』
「大丈夫大丈夫。ありがとな、クロ」


感謝の気持ちを込めてクロの頭を撫でる。すると、クロは気持ち良さそうに目を細めた。
……昔、泣いてた雪男を宥める様によく頭撫でてたな…。そういえば撫でなくなったのはいつからだ?
気付くと泣き虫の雪男はもう居なくて、アイツはいつの間にか重い何かを抱える立場になっていた。
今まで自分が守っていた弟の一人立ち。それが俺には少し淋しかった。





[SIDE:Rin]


「ただいまー」


クロも満足するほどに遊び終えた俺達は自室へと戻る。扉を開けると直ぐに寝ている雪男が目に入った。


「珍しい事もあるもんだな…」


「コイツでも仮眠するのか」と思いつつ、雪男の寝顔をまじまじと見つめた。俺達は双子だから同じ筈なのに…でもそれはただ生まれた日が同じだけであって、それ以外は全くもって違う固体だ。言ってしまえば、俺達は人種すら違う。…何だかまた淋しくなってきた。


眠る雪男の近くまで来てベッドに乗り上げ、規則正しく寝息を立てる雪男の下唇を人差し指でなぞる。弾力があって凄く柔らかい。俺も…同じなんだろうか?
そう思うと無意識に体が動き出して、気付いたら雪男の唇に自分の唇を重ねていた。

ゆっくりと雪男から体を離すと、その動きに比例するかの様、雪男の瞼も開く。何かこれ、王子様のキスで目覚めるお姫様みてぇ…何て寒い事を考えた。


「何してんの、兄さん」
「寝たフリかよ」
「普通あんな事されたら起きると思うんだけど…」


不思議と互いに冷静でいつもと何ら変わらない空気が流れる。俺は雪男の上から退くとベットからも降りた。雪男は外していた眼鏡を掛け、上半身を起こした。





[SIDE:Yukio]


「兄さんいつから弟の寝込みを襲うような趣味持っちゃったの?」
「何か雪男の寝顔見てたらつい…」
「ついって…兄さんはついうっかりで誰にでもキスするの?」
「えっ?!いやいやいや!しないしない!」


両手と首を必死に左右に振る兄さんは否定を表しているけど、本当に誰にでもしてるんじゃないかって心配になった。嗚呼、何だかまた悩み事が増えそうで頭が痛い。眉間を指で押さえると、兄さんがベッドの前に座り込んだ。僕より少し低い位置になった兄さんの目が真っ直ぐに僕を見上げてきた。


「……。俺達は双子なのに全然う。それに気付いたら雪男が遠くに感じて…何だか淋しくなったんだ。どこか、同じが欲しかったんだ」

「え?」
「なーんて、こんなん言われても困るよな!」


「悪い!」と、明るく笑い飛ばす兄さんの腕を強く引いた。バランスを失った兄さんは簡単に僕の元へ飛び込んできた。


「ちょ、いきなり何だっての。危ないだろ」


慌てて体勢を立て直す兄さんの額に自分の額をくっ付けて、瞼を閉じた。兄さんの体温が心地よくて、僕も同じ体温なのかな?と思うと何だか嬉しかった。


「兄さん、やっぱり僕達双子だよ。理由は違えど僕も淋しかった。兄さんはクロに構いっぱなしで、僕の事は全く気にしてないって思ってた」


額を離し目を開けると、手の甲で口元を隠して頬を赤らめた兄さんと目が合った。


「……んだよ、俺達同じ気持ちだったのかよ」
「みたいだね」


どちらともなく笑みが零れ、僕達は淋しさを半分に分け合うかの様、口付けを交わした。





- end -



燐雪にしたくて淋しがる雪男とそれをお兄さんらしく宥める燐が書きたかったのですが、何故か燐まで淋しがった…。そもそも燐雪になれてない。
2011.04.14

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