学園内で一番賑わう時間であろう昼休み。学食で昼飯を調達する者もいれば家からお弁当を持ってくる者…様々だ。


奇抜な髪色をした少年、志摩廉造は購買でパンと牛乳を買って中庭へと向かった。
もはやこれは彼の中では日課であった。目的地は中庭に聳え立つ大きな木の下。天気の良い日は生い茂る葉が影となって、また風が吹くと木々のざわめきが耳に心地良い。時が止まったような、そんな気さえしてくるのだ。
木の下に来るとその場に腰を降ろした。直ぐさまお昼ご飯のパンの袋を開け、食べようとしたその時…


「志摩くん!」


不意に一人の女生徒が廉造に話し掛ける。彼女の手には可愛い花柄のお弁当包み。
志摩は「隣のクラスの佐藤さんじゃないですか。どないしたんですか?」と、手にしていたパンを袋に戻すと、一旦地面に置いてから立ち上がり、にこやかに反応した。


「あっ…あたしの名前知ってるんですか?」
「当たり前やないですか。この学校の女子生徒さん方の名前は全員頭に入ってますよ。で、俺に何か用があって声かけたんと違いますか?」


用件を促すと少女は思い出したように「あっ」と声を上げ、少しだけ頬を赤らめて口を開いた。


「いつもここでお昼ご飯食べてますよね?」
「あはっ、お恥ずかしい。見られとったんですか」
「あの…隣に座ってお昼ご飯、ご一緒しても宜しいですか?」


途端、志摩は困った様に「んー…」と喉を鳴らし、頬をかいた。


「俺の隣…もう先約が居てはるんです、ずっと。ほんまにごめんな?お昼ご飯を俺と一緒したい思ってくれた気持ちは、有り難く受け取らせて貰いますわ」
「そう…でしたか。…残念ですが失礼致します…」


本当に残念そうに顔を伏せ少女はその場を立ち去った。
そして入れ違いで一人の男子生徒がお弁当を手にして走って来る。黒と金色の二色使いの髪色は、志摩に負けじと奇抜だ。志摩のいる木の下まで走って来ると相当な勢いで走ってきたのか、少し前屈みになって息を整えた。


「坊、随分急いで来て下さったみたいで…」
「悪い。ちょっと奥村に捕まってた」
「ははっ、奥村くんにですか?二人ともほんまに仲良しで妬けてきますわー」
「悪い冗談は止せや…何であんな猿と仲ようしなきゃならんのや」
「まぁまぁ、取りあえず座って食べましょ」
「おう」
志摩はその場に再び座ると先程置いたパンに手を伸ばし、口を大きく開けて食らいついた。坊と呼ばれた少年、勝呂も志摩の横に座り、「いただきます」と手を合わせてからお弁当を食べ始めた。


「……やっぱ俺の隣は坊やないとアカンですわ」


不意に志摩が呟く。
話の前後が見えないために言葉の意味が理解できない勝呂は、手を止めて志摩の方に顔を向けた。


「どういう意味や?」
「え?何でもありませんよ」
「なんやそれ。変な奴やな」
「へへっ、変な奴でも坊の隣に居られるのなら嬉しい限りです」
「…ッ」


志摩のストレートな言葉に思わず動揺し勝呂は手で口元を覆い隠し俯いた。その様子に疑問を抱いた志摩は勝呂の顔を覗き込む。しかしその表情はどうなのかいまいち伺う事はできない。


「どないしました?」
「何でもあらへん!あ…あんまジロジロ見んといてくれ」
「あれっ。坊、耳まで真っ赤やで」
「う、うるさい。早う飯食うぞ」


お弁当を一気に口へと流し込む勝呂に続いて志摩も残りのパンを牛乳で一気に流し込んだ。二人して口いっぱいに詰め込んだため、噛み砕いて飲み込むまでに無言状態が続く。喉を上下させ先に全てを食べ終えてたのは勝呂だったが、尚も続く沈黙。志摩は特に気にする様子も無く自分のペースで口を動かす。そんな志摩を何度も横目で見ては何かを言いたげに口を開く勝呂。
しかしその言葉はなかなか声にはならない。唾を飲み込み覚悟を決め、もう一度ゆっくりと口を開いた。


「………隣。志摩の隣は俺しか座れへんのやから、常に空けとけよ」


聞こえるかどうかの本当に小さな声だったが、志摩は聞き逃さなかった。
刹那、頬を撫でる程の優しい風が吹き、二人を包みこんだ。一緒に風に乗って来たかの様、志摩は柔らかい笑みを浮かべてこう答えた。


「勿論ですよ、坊」





- end -



2011.04.11


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