「先生、好きや。付きおうて欲しい」
志摩くんに告白され、何が何だか分からなかった。現実を受け止められず、僕はその場から逃げ出してしまった。
勿論、逃げてしまったので返事はしていない。そもそも何て返せば良いのか分からなかった。
僕には同性と付き合った経験は無い。偏見があるわけでは無いが、自分が同性と付き合えるかと問われたら、それはちょっと別問題。
しかし此処で志摩くんの交際申し込みを断ってしまえば、彼と程よく保ってきた関係が崩れてしまうのではないか…そういう不安があった。
だからどうしたら良いか分からずに、僕は逃げに走ってしまったのだ。
ちなみに告白されたのは数日前。その数日の間、志摩くんから告白の答えを求めてくる事は無かった。
勝手な話だと分かっているが、それはそれで腹が立つ。
何故、彼は何も言ってこないのだろう。最近の僕はずっとこの事が引っ掛かっていて、おかげで取るもの手付かず状態だった。
◇ ◇ ◇
「若先生、ちょお勉強教えてくれませんか?」
時計の針が夜九時を回った頃、突然志摩くんが部屋を訪ねてきた。その手には教科書。
「……勉強は教えます。しかし、その前に言う事は何か無いんですか」
「?……っと、夜分遅くにすんません…とか」
「馬鹿にしてます?」
「何で?!」
彼の中ではあの時の事、告白は何でも無かったのだろうか。そもそも志摩くんは誰にでも好きだとか言ってるんじゃないか。きっと僕も何人かに愛を囁いている内の一人でしかないのだ。そう思ったら何もかもが馬鹿らしくなってきた。
「所詮、君の言葉なんて軽いんですよ」
「へ?」
「だから簡単に、…好き、とか言えるんだ」
「えっ、え…えええ…?…あ!もしかして、こないだの告白の件について言うてます?先生逃げてしまったんで、てっきり答えはノーやとばかり…」
「誰がいつ返事なんてしました」
嗚呼、駄目だ。僕は何をこんなにイライラしているんだ。止まれ、と何度も自制をかけても高ぶった感情は、そう簡単には収まってくれなかった。
「君に告白されてからこっちは調子が狂いっぱなしだよ!授業に集中できないし、塾では君に視線が行かないよう気を付けちゃうし……ッ、もう疲れたんだ…!」
溜まりに溜まった思いを一気にぶちまけた。おかげで息切れ状態。肩を激しく上下させて呼吸するなんて…カッコ悪い。何だかもう腹が立つとかの感情を通り越して自分が情けなくなってきた。
志摩くんに振り回されて、こんなにも掻き乱されて…自分の不甲斐なさに顔すら上げてる自信を失い、俯いて自分の足元を見た。
「もう嫌だ…君は告白の答えは聞きに来ないでそのままだし…なのに僕だけずっとどうしようってぐるぐる悩んで…」
「先生それって…」
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(ちょ、何で開き直ったんですか)
(……うるさい)
- end -
Key word:大好きですが何か問題でも?by曖昧きす
2011.07.22