今日も無事仕事を終えて夜に帰宅。
部屋に入ると、むわっと熱気に出迎えられた。何事かと思い慌てて部屋の電気を付け、室内を見回すとベッドで爆睡している兄さんがそこにはいた。
何を思ったのかこの馬鹿な兄は、扇風機を付けていないどころか、窓すら開けずに寝ているのだ。おかげで部屋は一歩踏み入れるだけで瞬時に汗が噴き出す程に熱い。
この真夏に密閉された部屋で寝るなんて熱中症にでもなりたいのだろうか。
さて、問題はこの蒸し風呂と言っても過言ではない部屋でのうのうと寝ている兄さんの様子だ。
上気した顔に酷い寝汗。胸が異常なくらいに上下する程繰り返す呼吸。吐き出される息には熱がこもっている。
きっと兄さんにとっては苦しい事この上ない状況だろう。
本当に申し訳ないと分かっているが、そんな兄さんに僕は今、情けない事に欲色の情にかられていた。
…ここは一つ、冷静になってみる。
まずは兄さんを起こして水分摂取をさせよう。このまま見ていたら兄さんは熱中症になる事はまず間違いない。
僕は窓を全開に開けて、次に通学鞄から水筒を取り出す。それから兄さんを起こしにかかった。
「兄さん、起きて。こんな閉め切った部屋で寝るなんて死にたいの?」
「……」
「にーさん」
「…ホクロ……むにゃ」
「……起きろ」
「っっ?!」
尻尾を容赦ない力で握れば、兄さんは声に鳴らない悲鳴を上げて飛び起きた。
「ゆゆゆ雪男?お、おお、おま、何すんだよ!」
タオルケットを両手で胸元に手繰り寄せ、ベッドの端に移動して縮こまる兄さんに、にっこりと笑いかける。
「兄さんは熱中症って言葉を知らないのかな」
「し、知ってるって。今はやってる?かなんかのだろ」
「知ってるなら何でこんな状況下で寝てるの。死にたいの?」
「ちょーと寝ちまっただけだろ。長い瞬きだっての」
何が気に入らないのか拗ねた口調の兄さんに、僕のこめかみがぴくりと動く。しかしここで喧嘩をしている場合ではない。水筒を開け、お茶を注いでコップを兄さんに差し出した。
「…なんだよ」
「水分補給。脱水症状起こすよ、寝汗も凄いし」
「嫌だね」
「いいから早く飲む!」
「嫌だ!」
何を意地張っているのか。頑なに飲み物を拒否して、タオルケットに潜り込んで丸まってしまった。ただでさえ蒸し暑い部屋にいてイライラするというのに、この反応をされてはこっちも気が立つというものだ。
お茶の入ったコップはひとまず床に置き、兄さんのベッドに乗り上げてタオルケットを剥ごうと試みる。その攻防線は数分の間続いたが、暑い部屋で寝ていた兄さんの体力の消耗は目に見えていて、すんなりと僕が勝利した。
勝ち誇った笑みで見下ろし、兄さんの腰元に跨る。僕は先ほど床に置いたコップではなく、水筒本体に手を伸ばした。それをラッパ飲みの形をとって口につけるが、お茶は飲み込まずに口の中で留まらせた。
兄さんの顎を右手で掴み強引にこちらを向かせる。そして顔を近づけ、兄さんの口の中へと含んでいたお茶を流し入れた。ちゃんと兄さんが全部飲み込むまで口は離さず、空いていた手で後頭部もがっちりと掴む。
その時、ふわりと鼻に兄さんの汗ばんだ匂いが鼻に届いた。
(…っ、やばい。兄さんの匂いがいつもより強い)
汗のせいでより一層濃くなった兄さんの匂いに、沈めていた性欲が動き出す。暴れ出そうとする欲を抑止し、兄さんの体の動きもを制御する。
暫く兄さんは抵抗を見せたが、観念したのか喉を上下させてお茶を飲み込んだ。お茶が食堂を通ったという音を確認してから、僕は口を離した。
「っに、すんだよ!」
「だから水分補給だってば」
兄さんの口の端から、収まりきれなかったお茶が垂れていた。それを親指で拭き取ってやる。その時、タンクトップから覗く兄さんの汗ばんだ胸板が視野に入った。
…我慢していた僕の抑制という力がとうとう無になった。
「ゆ、雪男?お前何か目ェ怖…」
「……」
「おおおお、おい!何か言えよ!あ、兄ちゃんが悪かったから!ほんと、あんな態度とって悪かったって、な?」
「……」
「ゆき、あ、ちょっと止め、っあー!」
熱中症、
他(性的興奮)注意報。
- end -
リクエスト:無防備な燐を見て、ムラっとしちゃう雪男
2011.07.21