「坊。い、いきますよ」
「おう、いつでもええで」


学校も塾も無い、いわば休日。
窓は全開に開けているため、風通りの良い志摩の自室…といっても相部屋だが、室内には気持ちの良い風が通っていた。しかし床に正座をして、妙な雰囲気を醸し出す志摩と勝呂のおかげで、室内を循環する風は心地よいと一言では言い難い感じになっていた。


「ほ、ほんまにいきますからね」
「だぁっから、はよせぇ言うとるやろ」


勢いよく志摩の両手が勝呂の肩を掴む。それに対して勝呂は驚く事はせず、じっと志摩を見据える。志摩は口をもごもごと動かすばかりで、それ以上の動きを彼から見られる事は無かった。


「あかん、坊駄目ですわ…」
「何でや。お前、一ヶ月前からずうっとこの調子やないか。やっぱ俺から…」
「それはもっとあかんですって!ちゅうは俺からって決めてるんですから!」
「だったら早よせんか」
「だって無理なもんは無理ですって!」


見つめ合ったと思ったら、今度は言い合いに発展した。彼らが何で揉めているのか。それは、「どちらからキスをするか」であった。男女の恋路であるならば、「初キスは男性からカッコよくリードしてほしい」と思う女性も少なくはないだろう。しかし、勝呂も志摩も同性の男。互いの中に、「キスは俺から!」という気持ちがあった。
しかし恋人の気持ちを尊重したいと思う勝呂は、先手を打つ立ち位置を志摩に譲っていたのだ。その譲ったのが一ヶ月前。つまりこの一ヶ月、志摩からキスをしてくる事は無かった。
そろそろ我慢ならなくなって来た勝呂は、苛立ちを見せ始めていた。


「出来ひんのなら、何で出来んのか理由は言えや。そんぐらい聞かせてもろてええやろ」
「うっ…そ、それは…」
「あれか。ほんまは俺の事好いてないんやろ。だから出来ないんとちゃうか?」
「……?!な、何でそないな事になるんです?!」
「普通そう考えるやろ」
「っ!坊の馬鹿!」
「なんやと?!」


我慢の限界、に達したのであろうか。ついに勝呂は志摩の胸ぐらを掴んだ。そして今まで堪え忍んでいた分の思いをぶちまけ始めた。


「志摩からする言うたから、その気持ち大事にしてやりたくて俺はずっと我慢しとったんやで。それをお前ときたら…っ、我慢させられるこっちの身にもなってみろや!」
「だって坊がカッコ良すぎるのが悪いんですって!」

「……は?」



全く意外である言葉に、勝呂は素っ頓狂な声を上げた。掴んでいた胸ぐらも思わず離す。些か平静さを欠く勝呂であったが、それ以上に志摩は気が動転していた。


「だって坊にキスするんですよ!坊の男前な顔がドアップとか、そんなん俺往生してしまいますて!目を瞑ったら瞑ったで頭の中に坊が出てきて…もうどうしたらええか分からんくて…それで…!」
「わ、分かったから少し落ち着け志摩」


志摩がキスをなかなか渋っていた理由を聞き、無意識に勝呂は頬を赤らめた。その光景を知られざるべく、手の甲で口元を覆う。相手が自分の事を本当は好きじゃないからキスをなかなかしないんじゃないか、と思いこんでいた勝呂は、勘違いとは真逆すぎた真実に胸の奥が熱くなった。


(こ、こない恥ずかしい事を直接言われてどないな反応せえ言うんやっ…!)


表情には出さないようにしているものの、内心は相当の焦りの色に染められつつあった。よく分からない汗まで滲み出てくる始末だ。


「せやから坊の事…嫌いとかとは違いますから…ね?」


余程、この件に関して責任を感じてしまっているのであろう。志摩は遠慮がちに勝呂を見た。理由が理由であるため、別に勝呂も怒ってはいなかった。寧ろ、恥ずかしさの方が完全に勝っている。何か反応してやらなければ、志摩はきっと不安に思ってしまう。そう分かってはいるが、今この場での妥当な言葉が勝呂には出てこなかった。


「あの…ほんまのほんまに坊の事は…!」
「あんまゴチャゴチャ言うな言うてるやろ」


ちょっと前に胸ぐらを掴んだ手で、今度は志摩の顎を掴む。半ば無理矢理ともいえるぐらいの力加減で己の方へ向かせ、唇を相手へと押し当てた。そして、くっついたかと思えば直ぐにそれは遠ざかった。


「……はよ俺を志摩のもんにせぇっちゅーんや。っの、ド阿呆」


仕返しとばかりに、待ちきれずにいた初キスと口にするのすら恥ずかしい告白を添えてから、勝呂はずっと触れたかった唇に今度は味わう様ゆっくりと口付けた。






- end -


リクエスト:へたれ志摩君にイラつく勝呂君が襲う
2011.07.15

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