「あんね、先生。俺、今日誕生日なんや」
「えっ?」


お昼休みの中庭、隣同士座って昼食をとっている時に突如志摩が言葉を洩らした。あまりにも自然に、まるで日常会話と何ら変わらない口調だったので、雪男は聞き取り逃してしまい直ぐ聞き返した。


「今日、誕生日なんですよ俺」
「……」
「……」
「む、無反応?!」
「あ、いえ。すみません。いきなりすぎてどう受け答えして良いか分からなかったもので…」


志摩の反応を冷静に返す辺りさすが、と言ったところだろうか。「わぁ、そうなの?!知らなかった!じゃあお祝いしようか!」などと驚く事も無く、いつも燐が作ってくれるお弁当を再び食べ始めた。普通ならこれ以上の会話は期待しないだろう。しかし、志摩は違った。


「って事は俺の方が年上やん?!せんせ、まだ15ですよね?!俺16ですよ!わっ!」
「「年」上ではないですね。どう足掻いても同い年なのは変わりませんから。せいぜい月上といった所でしょうか」
「まーまー、そういうお堅い事は無しに行きましょうや。で、俺誕生日なんですが何かお祝いとか…」
「は?」
「…!ま、まさか何も無いって言いはりませんよね?仮にも俺ら恋人同士なんですよ?!恋人から誕生日プレゼント貰えないなんてそんな…」
「しょ、しょうがないじゃないですか!誕生日なの今知らされたんですから」
「そ、そうやね…」


見て分かる程に肩を落として気分を沈ませる志摩を目の前に、雪男は少し罪悪感を抱いた。つい先ほど誕生日を知ったといっても、恋人に誕生日を祝われないなんてどれだけ寂しい事だろう。何か食事でも奢った方が良いのかだとか思考を張り巡らせていると、突然志摩が顔を上げた。


「良い事思いついた!誕生日プレゼント、先生を貰ってもええですか?」
「え?」


志摩の言葉に雪男は素っ頓狂な声を上げた。
貰う=恋人として受け入れる。という事ではないのだろうか。だとしたら、志摩と自分はもうそういう仲であるはずだ。いや、もしかしたら恋人同士なんて思ってたのは自分だけなのかもしれない!
そう思うと、雪男は何だか凄く恥ずかしくなってきて冷や汗をかいた。


「今日一日、先生を好きにできる。どないですか?お金のかかるプレゼントじゃないですし、結構良いと思うんですが…」


確かにお金はかからないが、志摩の好きなようになんてリスクが高くついて危険すぎる。そう思って、二つ返事を躊躇する雪男に、志摩は追い打ちをかける様な事を事を言い出した。


「俺、先生に誕生日祝って欲しくていつ自分の誕生日言うか迷ってたんです。でもいざ言おうとすると、なんや自分図々しいなぁ思て、なかなか言い出せんくて…」


だんだんと語尾を小さくしていくにつれて、しょぼくれてしまった志摩に、雪男の中にある決心が生まれた。


「そうだったんですか…分かりました、僕にできる範囲なら善処をつくしましょう」


眼鏡をクイッと押し上げて真っ直ぐに志摩を見つめる。
何とか彼の期待に応えようとする辺り、雪男は本当に真面目であった。一方、雪男の性格を知ってる志摩は、どうすれば雪男が自分の要求を受け入れてくれるかを知っていた。だからこういう展開になる事を、最初から志摩は分かっていたのだ。


「で、何をして欲しいんですか?」
「あんなぁ、廉造先輩って呼んで欲しいねん」
「は?」
「せんせ、今日聞き返してばっかですね。そない俺の言ってる事、適当に聞いてはるんですか?」
「適当に聞き流したいところですが、志摩くんがあまりにもナナメ45度な事を言い過ぎるので、情報処理が追いつかないだけです」
「そうでしたか。で、廉造先輩って呼んで欲しいんやけど」
「却下ですね」
「なして?!たった今、善処を尽くす言うたばかりやないですか!う、嘘つくんですか?!」
「……嫌なものは嫌です」
「理由は?」
「……」


一方的に拒否を示すだけであって理由を言おうとしない雪男に志摩は溜め息をついた。


「自分で言った事には責任持ってもらいますよ。絶対に言うてもらいますから」」
「…なら、志摩くんの名前を発しなきゃ良いだけです」
「ほぅ、どうするん?」
「日本語って本当便利ですよね。二人称が色々ありますから」


ちょうどご飯を食べ終わったのか、お弁当箱に蓋をして布巾でくるむと、すくっと立ち上がり「それでは、僕は教室に戻ります。頑張ってくださいね、志摩くん」と嫌みたっぷりな笑顔を志摩に向けてその場を離れたのであった。





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2011.07.04


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