朝、目が覚めたら変なニオイがした。
臭いとか汚臭じゃなくて、嗅ぎ慣れないニオイ。
ふと、僕は気付いた。(昨夜、上で寝たハズなのに何故か隣で)寝ている兄さんから、薬品のニオイがする事に。
眠る兄さんの手の内には、ウナクール・ムヒ。
半透明の容器に入っているソレを手に取って蓋を開ける。
小学生の頃習った、「刺激臭を嗅ぐ時は手で扇いで嗅ぐ」という教えを守り、空いている手の方で扇ぎ、ニオイを嗅いだ。
………これだ。
部屋の中を支配するニオイ、兄さんのニオイ、そしてウナクール。
匂いの濃度は違うけれど、どれも同じニオイ。
「ん…ゆきお?」
目を覚ました兄さんが、まだ眠いのか幾度も目を擦りながら起き上がり、僕に「おはよー」と挨拶をした。
「兄さん…昨夜、勝手に僕のベッドに上がり込む前か何か、コレで何かした?」
「んー…?」
前に手にしている物を突き出すと、兄さんは目を細めて暫く考えてから声を上げた。
「あー!それか。おう、使った使った」
「一体どういう目的で使ったの?」
なんていったって、部屋に充満するほどのニオイの強さ。きっと虫刺されの痒みを静めるためには使用していないはず。
「一回は寝付いたんだぜ?でも寝苦しくて夜中に目ェ覚めちまってさ。また寝ようと思っても寝付けなくて…。
で、喉渇いたから一回ベッドを降りて…んで、戻る時に目についたのが雪男の机の上にあったウナクール。
容器に『クール』って書いてあったから、「これで涼しくなる!」と思って全身に塗ってみた。ただそんだけ!」
つまり、言っていたコトを簡単にするとこういう事。
「暑くて寝られないから、『クール』という単語だけを頼りにウナクールを全身に塗った」
僕は兄さんの偉大さに、直ぐには言葉が出なかった。
唯一出た言葉と言えば、「肌に負担をかけるから、あまりやらない方がいいよ」の一言だけ。
そりゃあ、全身にウナクールを塗れば、嫌でも部屋の中がくさくなるハズだ…。
- end -
2011.03.17