「あーつーいっ!暑い暑い暑い!」
「兄さん、うるさい。余計暑くなるから黙って」
「だってよー…」


タンクトップにパンツという、ラフの中でもこれ以上のラフさはもう無いというぐらいの格好をした兄さんは、床に寝転がりながら団扇でパタパタと自分に風を送る。おまけに勝呂君に教わった前髪が邪魔にならない方法、ピンで前髪を上げて留めている。

確かに、暑いのも無理はない。なんたって、今クーラーが故障中で扇風機でしか涼しさを得られない。正直、僕も少し暑いとは思っている。
机に向かって書類整理している僕の後ろで、兄さんは熱さで溶けて床と同化してしまうのではないかというぐらいにぐったりとしていた。


「とーけーるー」
「シャワーでも浴びて汗流してきたら?」
「おっ!なぁーいすアイディア!」


兄さんは勢いよく立ち上がり、「それだ!」とでも言うかの様に指を器用に鳴らした。ついでに「さっすが俺の弟」なんて言って肩を組まれた。…暑苦しい。早く離れてくれ。


「じゃ、シャワー行ってくる!」
「シャワー浴びたら、ちゃんと服着て部屋に戻ってきてね」
「てめっ、俺の事なんだと…」
「あ。兄さんちょっと待って」


口を尖らせ何かブチブチと言いながらドアノブに手をかけて部屋を出ようとする兄さんを引き止めた。


「んだよ雪男。何?」
「良い物あげる」


咄嗟にあるモノの存在を思い出し、椅子を引いて立ち上がる。「良い物」と聞いて兄さんの尻尾が微かにピクリと動いた。…何て分かりやすい兄だろうか。
タンスに近づき、その上に置いていたボトルを手に取って兄さんに「はい、コレ」と言って軽く投げて渡した。


「おぉ!クールローション!」
「それ、使っていいよ。ちなみにボディー用だから、髪の毛洗うのに使ったら駄目だからね」
「サンキュー雪男!」


鼻歌を歌って風呂場に向かう兄さんを目線だけで見送って僕はまた机に戻り、書類整理に集中た。





◇ ◇ ◇





書類整理も終えて一息つこうかという頃、風呂場から悲鳴が聞こえた。
何事かと思い急いで風呂場に向かって勢いよくドアを開けると、股間を押さえて床にうずくまっている兄さん。…と、足元にはさっき俺が渡したクールローション。


………まさか、


「ゆ、雪男…股間が、股間が冷たい火事だ…!」
「ねぇ、それで股間も洗っちゃったの?」


涙目で何度も頷く兄さん。


馬鹿だ。
自分の兄がここまで馬鹿だったなんて、さすがに双子の僕でも想像がつかなかった。


「兄さん、お風呂に入ったら直るよ」


それだけ言い残し、僕はその場から離れた。





それから兄さんの悲鳴がまた聞こえたのは、数秒後の事。





- end -



2011.03.17


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -