日が延び始めた五月。
祓魔塾の無い放課後、正十字学園の教室で燐と志摩は窓際の席に座り、課題をこなしていた。
「あかん奥村くん。これ終わらへんよ。早いとこ坊に助け船を…」
「駄目だっつの。そんなんしたら雪男に課題を倍にされるって!」
課題を倍、このを意味を説明するには数日前に遡る。
燐の弟である雪男の授業中、燐は教科書を盾にして、志摩は机の下で、それぞれ携帯を隠してメールのやり取りをしていた。しかしそんな子供染みた騙しで雪男の目を欺ける訳は無かった。
『奥村くんと志摩くん、二人は授業が終わった後に特別課題を出しますね』
口調は柔らかく口元も微笑んではいるが、確実に黒いオーラを身に纏い、レンズの奥に見える瞳は笑ってはいなかった。継いでトドメとも言うべき、「君達に出す課題なんだから、他は巻き込んじゃ駄目だよ」などと言われたものだから、二人は咄嗟に「己でやれと言う事か」と判断した。
「なぁなぁ奥村くん、ちょーっとだけ休もうや疲れた…」
「はぁ?お前もう少し頑張れよ。ったくカッコ悪ぃな…」
先に机に額をくっつけ完全に沈んだ志摩を見遣ると、燐も手にしていたシャーペンを置く。
ふと、燐は窓を通して空を見た。「随分日も延びたよなぁ」何て思いながら、直ぐにもう一度机に向き直る。
一向に沈みから浮き上がってこない志摩の顔は勿論、燐の位置から伺う事はできない。代わりに見えるのは頭だ。彼の頭髪はピンクという、そう見ない色であった。
その珍しい髪色と、教室に射し込む夕日の赤色の光が重なりあって、何だか不思議な雰囲気を作り出していた。思わず志摩の髪に手を伸ばす。何度も染めたであろう髪は、思っていた程傷んでなく、柔らかかった。
「お、奥村くん?!」
前触れなく伸びてきた手に驚いた彼は、顔だけでなく上半身も共に上げた。ようやく見えたその表情は驚いていて、それでいて何処か嬉しさも滲み出ていた。
「わ、悪ぃ。何か触りたくなった」
堪らず出した手を引っ込めようとするが、志摩に手首を掴まれそれは阻止された。掴んだ手首を志摩は自身に引き寄せ、ちゅっと指先にキスをした。
「奥村くんに触られるなら嬉しいさかい、もっと触ってええよ」
――何言ってんだよ、バカ。
そう告げる燐の頬は夕日のせいなのか、何処と無く赤く染まっている様に見えた。
- end -
2011.05.10