「なぁ志摩。さっき奥村先生が言ってた薬の調合のとこなんやけど、聞き取れんかったからノート見せてくれ」
「……」


授業終わり、前の席の勝呂がノートを持って後ろを振り向いた。しかし志摩は一切顔を上げる事をしなければ、声で反応する事もなかった。
まさかこの距離で聞こえてなかったんか?と疑問を抱きつつ、もう一度、勝呂は志摩を呼んだ。


「志摩」
「……」
「……なんや授業前の事まだ起こってるんか」


志摩の肩が僅かに揺れた。その微妙な変化を勝呂は見逃さなかった。しかし一向に顔を上げない志摩に勝呂は小さく舌打ちをし、もう一声押した。


「あんな志摩、そっちがその気なら俺も一切口聞かへんからな」
「……か」
「…なんやて?」
「ほんまは坊、俺の事好きと違うんじゃないですか」


やっと喋ったその言葉に、勝呂はピクリとこめかみ部分をヒクつかせた。そして志摩の腕を掴み、無理矢理に立ち上がらせる。


「ぼ、坊?!」
「ちょお来い」


掴んだ腕を引いて教室を出ていく。その光景に、訓練生の燐達は「何事だ?」とばかりに二人を見るが、勝呂の静かな怒りの飛び火を受けたくないのか、声をかける者はいなかった。


長い廊下を無言で歩く。勝呂も志摩も会話を交わそうとはしなかった。あるドアの前で足を止めた勝呂は扉を開け、無理矢理に志摩を室内に押し込む。そして自分も入り扉をピシャリと閉めた。
薄暗い室内が妙な緊張感を纏う。


「い、いきなり何するん?」
「いきなりはこっちの台詞や。俺がお前好きじゃないって何なん?冗談も大概にせえよ」
「……」
「どうせお前の事や。俺がいつまで経っても手ェださんから、そういう考えになったんやろ」


再び志摩の腕を掴むと引き寄せ、自分との立ち位置を逆にする。空いてる手で華奢な肩を扉に押しやり、腕を掴んでいた手は離すとそのまま志摩の顔の横へと手を着いた。逃げ道は、無い。


「俺はな、お前の事真剣な分、雑に扱いたく無いんや」
「……」
「ほんまは俺も志摩に触れたい思うてる。でもな、やっぱ大事にしたいんや。雰囲気とか」
「……」
「……」
「…ぶふっ」


思わず志摩が吹き出す。相当笑いが堪えられないのか、下を向いて喉を鳴らした。


「す、すんませ…。だっ、だって…坊が、雰囲気とか…ぶっ、そんな…」
「…しばいたろか」
「それは堪忍してください。坊があまりにも硬派すぎてビックリしてもうた」
「俺は志摩みたいにチャラく無い…」
「ちょ、坊酷い言い様やって。でも、真意が分かって安心しましたわ。何や困らせてしもうてすみません」


勝呂は未だ肩を上下させて笑う志摩の肩から手を離し、「分かればそれで良し」とでも言うかの様、ピンク色に染め上げられた髪を優しく数回撫でた。後に、その手で志摩の視界を遮った。


そして、素早い動きで唇を奪う。


数秒、志摩の唇を捕らえ離れると視界を防いでいた手もそっと離した。


「あまりからかうなや。…いじめてしまいたくなる」
「ぼ、坊…」
「いきなり悪かった。教室、戻ろか」


ドアノブに手をかけたその時、これでもかっていうぐらいに幸せに満ちた笑顔の志摩が勝呂に飛び付いた。


「坊!めっちゃ好きや!俺、一生坊の事幸せにしたるからな!」
「阿保、一生幸せにすんのは俺の役目や」





軽い言い合いに嬉しさを噛みしめながら、二人は教室へと戻っていった。





- end -



2011.05.02


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