記念日当日の昼休み、志摩くんに伝言すべく僕は彼のクラスに出向いていた。


(確か志摩くんのクラスは…あった、ここだ)


廊下側の窓から室内を覗く。他よりも奇抜な髪色をしている彼は、直ぐに何処にいるのか分かった。同時に見つけた瞬間、胸の鼓動が高まる。そういえば、僕も志摩くんも「生徒」という形で校内で会うのはこれが初めてかもしれない。そう思ったら何だか余計にドキドキして落ち着かなかった。
取り敢えず、今はさっさと目的を果たして自分のクラスに戻ろう。


「し、志摩くん!」


教卓を囲んで友人達とお弁当を食べる志摩くんを呼ぶ。
室内がかなり賑わってるから、僕の声が聞こえるか少し心配だったけど、志摩くんの顔が僕の方へと向いた。良かった、届いたみたいだ。気付いた志摩くんは直ぐに僕の方へと来てくれた。


「奥村先生!わ、クラスに来るなんて珍し!どないしたん?」
「ちょっとお伝えしたい事が…」
「授業の事ですか?」
「いえ、違います」
「え、違うんですか」
「……」
「……」
「……」
「せ、先生?」


僕より背の低い志摩くんが首を傾げて僕を見る。志摩くんだって暇な訳じゃないんだから、早く、早く伝えなきゃ…。


「あの…」
「ん?」
「今日の最後の授業、終わったらちょっと教室に残ってもらえますか?」
「え!!居残り勉強ですか?!」
「ち、違います!多分悪い話ではないので安心してください。それでは…」
「多分って余計不安を煽らんといてください!って、用事それだけですか?」
「?それだけですよ?」
「先生、そんぐらい別にわざわざ教室に来なくてもメールで良かったんちゃう?あ、そんな俺の顔見たかったんですか?」
「なっ…!」


ニヤニヤ、まさにこの擬音がピッタリな程に口元を歪めて笑う志摩くん。別に顔が見たいから教室に来たという下心は無かったが、何だか恥ずかしくなって僕の顔は熱くなった。


「今日の授業は志摩くんを集中的に当てますからね!」
「えええ?!」


捨て台詞かの如くそれだけ言って踵を返し、自分のクラスへと戻った。遠くで志摩くんが何か嘆いてた気もするけど…今は敢えて耳をかさない事にした。





◇ ◇ ◇





最後の授業がもう終わった頃であろう時間、教室へと向かう。教室の戸を開けると、僕が呼び出した人物が一人…志摩くんが教卓に座っていた。「教卓は椅子ではありませんよ」と言いつつも、教卓に座る志摩くんの前に立って、今は自分よりも高い位置にいる彼を見上げた。


「あ。奥村先生の上目遣いかわえー」
「茶化さないでください…」
「だってホンマの事なんですから仕方無いじゃないですか。で、用事って何ですか、奥村センセ?」
「……」


来た。運命の分かれ道。果たして志摩くんは喜ぶのか…もしくは僕がスベって恥ずかしい思いをするのか…。これで僕に恥を書かせたら、授業は一生兄さんを当ててやる。と思いつつ、震える口を開いた。


「し、志摩くん…」
「ん?」
「目を…瞑ってもらえますか?」
「め、目?」


いきなり何のこっちゃ、と言わんばかりの表情の志摩くん。でも何も言わずに目を閉じてくれた。

心臓の動きが速まる。胸に手を当てなくても音がうるさいぐらいに聞こえる。口の中も異常に渇く。目を瞑った志摩くんにもう一歩近づいて、数センチしかない距離まで近寄る。


彼の太股に手をついて少し背伸びをして…


そしてそっと、唇を寄せた。


「せ、せん…せ?」
「ぷ、プレゼントです」
「へっ?!」
「今日…付き合って一ヶ月記念なのでそれで…」
「……」
「えーっと…志摩、くん?」


やばい、完全にスベった。やっぱり兄さんの言う事なんか聞くんじゃなかった!そうだよ、よくよく考えたらプレゼントがキスとか寒すぎだよね。この場から逃げたい。あわよくば、地球上から存在自体を消したい…。


「先生!」
「うわっ!」


志摩くんが言葉を発した途端、急に強い力で抱き締められた。こんなに密着したら、僕の心臓の音が聞こえるんじゃないか、そう思えるぐらい僕らの距離はゼロだ。


「何でそない可愛い事してくれんのや。ああもう、先生ズルいわぁ」
「あのー…」
「先生ほんまごめんな?俺なんっにも用意しとらんわ。まさか先生が記念日を気にしてくれてたなんて思って無くて…」
「いえ、別にそんな大丈夫ですよ」
「だから、これで堪忍な?」


ちゅ、と小さなリップ音を立てて唇が離れた。


「あ、あれ?今、キ…キス…」
「したよ。あかんかった?」


眉尻を下げて落ち込む志摩くんに慌てて首を横を振る。僕も抱き締め返して、ちょっと恥ずかしいけど…今の気持ちを素直に伝えたいと思った。


「素敵なプレゼント、ありがとうございます。凄く嬉しいです、大事にしますね」










(お、奥村先生)
(何ですか?)
(一ヶ月記念でちゅーしてもらえるって事は、もしかして二ヶ月記念には先生の初めてを貰える思うて良いですか)
(…?!真面目な顔でそんな事言わないでください…!)





- end -



2011.05.01


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