街の中をさ迷う僕は今、経験した事の無い、とてつもなく高い壁に直面していた。


志摩くんとそういう仲になって明日で一ヶ月。所謂、明日は記念日だ。数週間前、クラスの女子が「明日記念日なんだけど彼氏に何をプレゼントしようかな」と、友人間で話していたのを耳にした。そこで初めて「記念日は何か贈り物をするもの」と学んだ僕は、その日からずっと志摩くんにプレゼントする物を考えていた。

…考えていた。

しかし、そもそも僕と志摩くんとでは系統が違いすぎる。一体何をプレゼントすれば喜ばれるのか、それが一切思い浮かばなかった。一人で悩んでも仕方がない。ここは(あまり答えは期待して無いけど)兄さんに相談してみよう。


「ん?何かお揃いのモンあげときゃ良いんじゃねえの」


たまには兄さんも役に立つ事言えるんだな。と関心しつつ、「お揃いのもの」を何にするか考える事にした。世間一般の恋人同士がペアにするものって何だろう。
僕の恋愛経験の薄い頭と、ジャンプSQで連載している恋愛漫画はどうだったかを思い出し、色々と考えてみた。
ストラップ…は、志摩くんの好みじゃなかったら申し訳ないから却下。定期入れ…、そもそも僕ら寮生活だから電車やバスは滅多に使わない…。
志摩くん。志摩くんといえば…そういえば彼、いつもYシャツの下にTシャツを着ていたような。

…………。

いやいやいや。男子中学生がTシャツのペアルックとか有り得ないだろ。想像したら凄く気持ち悪い図しか出てこなかった。


と、そんなこんなで毎日悩み続けていたら、ついに記念日が明日になってしまった。
何かヒントになればと街に出てきたものの…


「何も見つかりやしないよ…」


思わず口に出てしまった言葉。おまけに溜め息も一つ。こんなんじゃ明日、志摩くんにとても会えない。いっそ、プレゼントとして明日の授業は全部志摩くんを当てるべきだろうか。


「なんて事したら嫌われちゃうだろうなぁ」
「あれっ、雪男じゃん!」


唐突に背中に声がぶつかる。振り向くと、買い物袋を片手にしてクロを肩に乗せた兄さんがいた。


「お前何やってんの」
「……プレゼント探し」
「えっ。もしかして、何をあげるかまだ悩んでたのか?」
「兄さんにはきっと当分来ない悩みだよね…」
「てめっ!……仕方ねえなあ!ここは可愛い弟のためだ!兄ちゃんが知恵を貸してやろう」


ちょいちょい、と小さく手招きをする兄さんに顔を近づける。そして兄さんは小さな声で知恵を僕に授けた。


「……ご、ごめん。兄さん…それはちょっと遠慮したいかも」
「なぁに言ってんだよ。ここまで来たら背に腹はかえられないだろ?それに絶対に志摩喜ぶって!絶対!」
「でも…」
「これで上手く行かなかったら、俺のゴリゴリくん食って良いから!な?」


余程の自信なのか、兄さんは凄く満面の笑みだ。正直、上手く行く気はしない。でも兄さんの言う通り、今は背に腹はかえられない。僕はこの賭けにかけてみる事にした。





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2011.05.01


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