脱衣所に着くと、風呂場から鼻歌が聞こえた。言わずとも歌っているのは兄さんだ。「常にめでたい状況の人っているもんだよね」と思いつつ服を脱ぎ、腰元にタオルを巻いて浴室の引き戸に手を掛けた。


「兄さん、そういえば今日の…」


小テストの事について聞きたかったけれど、その質問は全てを発する前にピタリと喉の中で止まってしまった。戸を開けた先には、バスタブに肘を掛け時たま水面に浮かぶ泡を掬い取り、ふぅっと吹き飛ばしてはしゃぐ兄さんの姿だった。

コイツ…先に泡のモト入れてくつろいでやがる…。


「おっ、雪男来たかー!」
「兄さん、何で先に泡楽しんでんの…」
「え、別に良いじゃねえかよ。よーし、兄ちゃんが背中流してやる!」
「少しだけ泡のモト入れる瞬間楽しみに…」
「細かい事気にすんなっての!はい、椅子に座る!」


湯船から結構な音を立てて出てきた兄さんは、体を洗う用のスポンジを持って準備満タンだ。折角だしここは素直に椅子に座って背中を流してもらう事にした。


◇ ◇ ◇


たまに凄い力の入れ様で背中の皮膚が剥げるんじゃないかと思ったけど、綺麗さっぱり兄さんに洗ってもらった背中は何だか気持ちが良かった。


「兄さん、ありがとう。次は僕が…」
「あれ。雪男、こんなとこにホクロあったか?」
「ぅあっ?!」


不意に首根元の右側を指でなぞられる。急な刺激を受け入れるにはあまりにも無防備だったため、思わず背筋がピンと張った。すかさず振り向き犯人をキッと睨み付ける。


「ちょ、ちょっと!いきなりなんなの!」
「え、ホクロがあるなーって。…つか雪男、首触られるの弱いんだな」


あ、兄さんが悪い顔をした。これは絶対にしょうもない事を考えてる顔だ。面倒事になる前に「今度は僕が背中流すよ。交代ね」と言って、早く兄さんの背中を流して湯船に浸かろう。


そう思って口を開いた瞬間…


「あっ、ちょ…ちょっとヤだって!」


口からは予定してたのとは全く異なる言葉が出た。
しまった、先手を打たれた。しかし悔やんでも遅い。
弾力のある生暖かい物が、先程兄さんの指が触れたヶ所を辿る様に這う。それが何なのか…兄さんの舌だというのは直ぐに分かった。


「兄さ、ンッ…止めてってば!」
「……雪男悪ぃ」


『背中流す代わりに此処で相手…してくんねえ?』


大きく心臓が脈打った。
そんな熱のこもった声で、ましてや耳元で囁かれて…何処か期待している自分が居るだなんて気付きたくなかった。
昂り始めた体は正直で。僕は素直に首を縦に振っていた。





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Key word:バスタブにて愛を囁く。by平成カルマ
2011.04.26

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