そろそろ日付も変わる頃。
机の上で作業して散らかった書類を順番通りにまとめ、綺麗に整頓をする。
僕は学生としての課題だけでなく、塾講師として生徒の授業用プリントも作らなくてはならないから、長時間机に向かっている事なんてもはや日常化していた。
学生と講師。この二重生活は正直辛い。かといって、嘆いたとこでどうにもならないのは分かっている。やるのは自分自身、僕しかいないのだから。


(でもさすがに今日は疲れた…もう寝よう)


大きく伸びをして椅子から立ち上がる。すると丁度、肩にタオルを掛けたお風呂上がりの兄さんが部屋に戻ってきた。


「あ。まだ起きてたのか」
「うん、誰かさんでも分かる授業を考えてたら遅くなっちゃっただけだよ」
「おま、なんつー嫌味」
「本当の事でしょ?」


ハハッ、と軽やかに笑い飛ばす。そんな僕とは対称的に兄さんの顔はむすっとして眉間に深いシワができていた。こんなやり取りも、僕達の間では日常の一部として溶け込んでいる。


「それじゃあ、僕はもう寝るよ。少し今日は疲れちゃった」


あくびを手で押さえながらベッドに入り込む。眼鏡を外して後は倒れ込んで寝るだけ…って筈だったんだけど、兄さんが僕のベッドまで近寄ってきて、そのまま腰を掛けた。…おかしいな、つい今さっき僕は「寝る」と言ったはずなんだけど。


「兄さん…僕今から寝るんだけど…」
「……」
「ねえ、聞いてる?」
「…勉強に関して理解が悪いのは謝る。そこは俺も雪男に迷惑かけない努力をする。だから…何か他で俺でも雪男の役に立てる事があるなら、ちゃんと言えよ」
「どうしたの?急に…」


いつになく真剣な兄さんに、さすがに茶化した言葉を返す事はできず、こっちも慎重に出る。


「お前、何でも一人で背負い込んで解決しようとしすぎなんだよ。少しはどっかで息抜いて休む事も覚えろ」
「え?」


怒っている訳でも心配している訳でも無い、かと言って無表情の冷たさではない…何かを諭した様な、そんな顔を向けられる。兄さんの微動だにしない深い青色の瞳から目が離せない。


「お前は一人じゃないんだからな」


『一人じゃない』
その言葉が凄く脳裏に焼き付いた。確かに僕は何でも一人で抱え込みがちだったかもしれない。心のどこかで「誰かに助けを求めても仕方無い」そう諦めていた部分もきっとあった。兄さんはそんな僕の思考を見抜いた上で、一人じゃない。そう言うったのだろうか。
だとしたら、少しだけ…少しだけ兄さんに甘えてもいいのだろうか?


「…ねぇ、兄さん。抱き締めても、良い?」
「あぁ」


兄さんの体をそっと抱き寄せる。腕の中に収まる確かな存在が、「僕は一人じゃない。兄さんがいるんだ」そう思わせてくれた。
ふと、背中に熱を感じる。兄さんの暖かい手が背中に回り、僕を安心させるかの様優しく撫でてくれていた。
何か張りつめていた糸がほどけたのか、さらに眠気が一気におとずれた。そして僕は抱き締め抱き締められるまま、ゆっくりと目を閉じた。





 






「雪男ー、そろそろいいか?俺も寝てぇんだけど」
「……」
「おーい、雪男さーん」
「……」
「ね、寝てる…!」





- end -



2011.04.24


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