▽ 第7話
オールマイトが雄英の教師に就任したというニュースは全国を驚かせ、雄英高校には連日マスコミが押し寄せる騒ぎとなっていた。
「君!オールマイトの授業の様子を聞かせて!」
「ひえっ、あ、わ私急いでるので…」
マイクを向けられ、びくりと体を縮こませた憂は報道陣の間をすり抜け、駈け出す。テレビに映るなんてとんでもない、と身震いした。
「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績を見させてもらった」
相澤先生が教壇に気だるそうに立つ。昨日の戦闘訓練についていくつか兄と出久に説教した後、HRの本題へと話が進んだ。
「急で悪いが、今日は君らに…学級委員長を決めてもらう」
「学校っぽいの来たーー!!!」
皆が皆、我先にと手を挙げ立候補する。普通からなら雑務ということで皆立候補することはないが、ここヒーロー科では集団を導くというトップヒーローの素地を鍛えられる役なのだ。しかし憂は縮こまったまま手を挙げることは出来なかった。自分よりも適任者がいる、そう考えてしまうのだ。
「静粛にしたまえ!!」
眼鏡の委員長風の男子、飯田が立候補しながらも投票で決めようと発案した。憂は悩んだ。誰に入れるべきか……ちらりと後ろを振り返る、すると丁度目があって、憂は驚いてすぐに前を向いた。投票用の紙が回ってきて、憂は先ほど目があった彼に投票することに決めた。
結果として出久が三票、八百万が二票で、二人が委員長、副委員長となった。憂が投票した轟は一票だった。彼は二人のどちらかに入れたのだろう。憂はなぜ彼が自分に入れなかったのか、不思議に思った。
昼休み、憂は葉隠と大食堂でランチを食べていた。友達と食事をするなんて憂は緊張で箸が震えてしまっていた。それにしても透明人間の食事を見ているのは面白くて、憂はちらちらと挙動不審に横を向いていた。
「そういや憂ちゃんは名前なかったよねー、他に入れたの?緑谷くん?」
「いや、私は…」
「ここ、いいか?」
ふと声をかけられて方を見ると、そこには今思い浮かべていた轟が立っていた。
「あっえっと、どうぞ」
「いいよー」
目の前に轟が座る、憂は一瞬にして緊張が増し、喉が詰まったような感じを覚えて食事が喉を通らなくなってしまった。そんな憂を知ってか知らずか、轟が話しかけてきた。
「お前、俺に入れたろ」
「えっ……はい」
「えーそうなんだー!なんで?」
葉隠が興味津々で聞いてくる。目の前の轟は聞いたわりに興味がなさそうにそばを啜っていた。
「轟くん、私の足の怪我に気がついてくれてたし、そういうことができる人がみんなを引っ張ってくれる方がいいんじゃないかって……思ったんです」
段々尻すぼみになっていく言葉を聞いて、轟が箸を置いた。そして一瞬だが、少しだけ彼が笑ったような気がすると憂は思った。
ウウーといきなり警報が鳴り響いた。驚いた憂は椅子から飛び跳ねて箸を床に落としてしまった。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外に避難して下さい』
「校内に誰かが侵入してきたってことか」
「セキュリティ3って雄英バリアーのやつだよね!」
生徒たちが一斉に出口を目指して走り出す。それに押される形で憂たちは波に飲み込まれた。憂は人に酔いながら食べたものがせり上がってくるのを感じて両手で口を押さえた。
「爆豪!」
「!?」
腕を取られて人混みから抜け出す。目の前にいたのは轟だった。すぐに腕は離された。
「あ、ありがとう…」
「いや、大丈夫か?」
「う、うん」
せり上がってきたものをなんとか飲み込んで頷く。すると出入り口の方から飯田の声が聞こえた。
「大丈ー夫!!ただのマスコミです!なにもパニックになることはありません大丈ー夫!!ここは雄英!!最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」
「かっ、」
かっこいい、憂は素直にそう思った。
その後、警察が到着しマスコミは撤退して昼休みが再開された。
昼休みが終わってHRが始まり、委員長になりたての出久が委員長に飯田を指名した。食堂にいた面々も賛同して、飯田が委員長になった。
それにしてもどうやってマスコミが雄英バリアーを抜けて、校内に入れたのだろうか。憂は不安げに目を落とす。何か、起こるのかもしれない。
そして、その予感は的中することになる。
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