爆豪くんの内気な双子の妹 | ナノ


▽ 第4話


入学早々個性使用可の体力テストが始まった。まずは50m走。憂と一緒に走るのは教室で一緒に話していた葉隠透だ。彼女は明るい性格なのだろう、顔が見えなくても声音や雰囲気でそれがよくわかった。

「がんばろーね!」
「う、うん」

憂は靴と靴下を脱いで準備をする。周りが不思議そうな顔をしていたが、恥ずかしくて大声で個性の説明なんて出来やしない。

『位置について、ヨーイ、!』

足の裏に汗を集中させて、一気に連続爆破でゴールまで飛ぶ。すると憂は、勢いをつけすぎてゴールを追い越して顔面から地面に強打してしまった。

『3秒89!』

「憂ちゃん大丈夫!?」
「へ、平気…」

走り終えた葉隠が心配そうな声音で走り寄って来てくれた。咄嗟に受け身を取ったので顔以外は平気だった。しかし鼻がじんじんと痛む。鼻血は出ていないだろうかとそっと確認した。

次の組は兄と幼馴染だ。走り終えた兄の記録を聞いて、一人頬が緩む。初めて何かで兄に勝った瞬間だった。


握力、立ち幅跳び、反復横跳び、ボール投げどの種目も個性を駆使してなんとかヒーローっぽい記録を出せたと憂は自分を褒めた。今まで個性をまともに使ったことがあまりなかったので、足はじんじんと痛むが、残り数種目、なんとかいけそうだ。

ボール投げ、次は出久の番だった。彼は中学よりは体力向上しているものの、今の所個性を駆使した記録は一つも出せていない。それはもちろんだった。だって彼は無個性で、あの仮想敵相手の入試をどうやって合格できたのか未だに憂は分からなかった。

「大丈夫かな…」
「あー、あの同中くん?ちょっとやばいよね!私も人のこと言えないけど!」

隣にいた葉隠が励ますように背を叩いてくれた。憂は彼が最下位で除籍になりませんように、と祈った。




幼馴染はボール投げで、爆豪双子が目を剥くような大記録を出してみせた。だって彼は無個性のはずで、個性の発現はもれなく四歳までだったはずだ。彼が個性を持っているのはありえないことだった。

「どどど、どういう…」
「どーいうことだこら!ワケを言え、デクてめぇ!!」

兄が出久に向かって飛び出していった。しかしすぐに相澤先生により捕縛されてしまっていた。

「彼すごいねー!」
「う、うん」

隣の葉隠が楽しそうに言った。
一体、どういうことなのだろう。彼は元々個性を持っていた?いやでも、そんなはずはない。今朝ドアのところで話していた女の子と一緒にいる出久をじっと見つめながら、憂は考えていた。



全種目を終え、結果発表の時。憂は出久が最下位になっているかもしれない、除籍になるかもしれないとドキドキして結果を待っていた。

結果は、出久は最下位。憂は9位だった。
ショックだった。油断をすれば膝から崩れ落ちそうになってしまった。彼と一緒にヒーローになる、その夢は壊れる瞬間だった。

しかし、除籍は相澤先生の嘘、合理的虚偽だったようで、最下位の出久は除籍されずに済んだ。憂は心底安心して、ほっと息をついた。

「あんなの嘘に決まってるじゃない…ちょっと考えれば分かりますわ…」
「すっかり騙されちゃったよー!ね、憂ちゃん!」
「う、うん…良かった…」



着替えて教室に戻り、相澤先生に言われた通りにカリキュラムに目を通す。すると、目の前に影が差した。顔を上げるとそこには葉隠がいた。

「ねーねー!憂ちゃん駅まで?一緒に帰らない?」
「わ、わ私と?」
「うん!憂ちゃんと!」

顔が見えていたら笑っているのだろう、そんな風に憂には思えた。

「私で良かったら…」
「やったー!」

大きな動作をして喜ぶ葉隠に憂もつられて笑ってしまう。

雄英高校に入って、一日目で友達が出来たこと。これは憂にとって兄に勝ったことよりも誇らしくて嬉しかった。

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