爆豪くんの内気な双子の妹 | ナノ


▽ 第3話


「勝己も酷いわよね、一緒に行けばいいのに」
「いいよ、大丈夫」

入学当日の朝、憂を置いてさっさと登校してしまった兄に、お母さんが代わりに怒るのを、眺めながらローファーを履く。
ブレザーとスカートのシワを伸ばし、ネクタイを整える。どこからどう見ても雄英高校の制服だ。

「うん、似合ってるよ制服!」
「ありがとう、お母さん。いってきます」



「大きなドア…」

1年A組の教室の前に着くとそこには見上げるほど大きなドアがあった。そろりと中を覗くように中にはすでに大半のクラスメイトの姿があった。その中に兄を見つけた。目があうとすぐに逸らされる。入試に合格してからというもの、毎日こんな感じで憂は兄に避けられていた。

兄の席の前が空いてる、そこが私の席だろう。教卓を横切り、席に着く。すると、憂はぎょっとした。目の前に服だけが椅子に座っていたのだ。その服が振り返ってこちらを見た。

「あ、私葉隠透!よろしくね!」
「うえっ、あ!?」

目の前から発された声にびくりと肩を揺らす。あわあわと両手をバタつかせ混乱する。もしかして、透明人間というやつなのだろうかと憂は結論付けた。

「ば、ばば爆豪憂です」

息を整えて、挨拶をする。おそらくあるだろう制服の上、顔の辺りを見ながら言った。

「爆豪って二人いるよね?双子なの?」
「う、うん。ふた…ご」

すると後ろに座っていた兄が苛立ったように舌打ちをしてドンっと大きな音を立てた。そろそろと後ろを見ると机に足をかけていた。

「お、お兄ちゃん…」
「こら君!机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」
「思わねーよ。てめーどこ中だよ端役が!」

どこからともなくやってきた委員長っぽい眼鏡の人が兄を注意していた。憂は目を丸くさせた。小学校も中学校も素行不良の兄に注意するような同級生はいなかったからだ。

「なんだかすごいね!」
「う、うん」

二人の会話を眺めながら葉隠と話していると、教室のドアの方が騒がしくなった。眼鏡の彼がそちらへ向かったらしい。兄は後ろで「デク…」と機嫌の悪そうな声を出した。
ドアの方にいたのは幼馴染の出久で、同じクラスなんだと思うと、憂は嬉しさで顔が緩むのを感じた。

「知ってる人?」
「あ、うん…同じ中学校だったから」

すると彼は後から来た女の子と親しげに話しているのが見えた。憂はなぜだが胸がもやもやしているのを感じていた。なぜだろうと首を傾げているとその時、チャイムが鳴った。

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここは…ヒーロー科だぞ」

芋虫のようなものがそこにいる。その衝撃にクラス一同シーンと静まり返った。

「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

ぬっと芋虫のような寝袋から這い出てきたのは先生だった。雄英ヒーロー科の講師は全員プロのヒーローらしい。つまり、くたびれた人もプロのヒーローなのだろうか。

「担任の相澤消太だ、よろしくね」

くたびれた人が担任の先生だという事実に驚いていると、彼は自分の寝袋の中をゴソゴソと漁り、あるものを取り出した。

「早速だが、体操服着てグランドに出ろ」



「個性把握テスト…?」

入学式やガイダンスを全てすっとばして、個性使用可の体力テストをやる、と担任の相澤先生が言った。
デモンストレーションとして兄がソフトボール投げをする。球威に爆風を乗せて、705.2mという記録を叩き出した。

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
「なんだこれ!!すげー面白そう!」
「個性思いっきり使えるんだ!!さすがヒーロー科!」

周りの感想は面白そうというものだった。確かに今まで学校で個性を全力で使うような機会はなかった。憂も少しは胸を躍らせていた。

「………、面白そう…か。ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」
「!?」

気怠げなだった先生の雰囲気が一気に変わる。彼もまたプロヒーローだという実感が今更湧いてきた。

「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」
「はあああ!?」

除籍処分という言葉にびくりと肩を揺らす。除籍処分ということは、退学ということなのだろうか。

「生徒の如何は先生の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

相澤先生の赤くなった瞳がきらりと光った。

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