爆豪くんの内気な双子の妹 | ナノ


▽ 第27話


翌日、学校で相澤先生が昨日出久が敵に遭遇した為、急遽合宿先を変更したことを皆に伝えた。行き先は当日まで明かされないこととなり、憂は母にもう既に合宿先を伝えたことを思い出していた。八百万が話が誰にどう伝わっているかわからない、そう言ったのを聞いて憂も頷いた。


こうして、敵襲撃や体育祭、職場体験などであまりに濃密だった前期は幕を閉じた。そして夏休みに入り、林間合宿当日になった。


「忘れ物ない?二人とも」

母が玄関まで見送りに出てくれていた。その言葉に兄と共に返事を返す。

「ああ」
「うん、大丈夫。行ってきます!」

久しぶりに兄と二人で家を出る。とは言っても、兄の歩幅と憂の歩幅は違う。あっという間に兄は憂を置いて先に行ってしまった。憂は少し残念な気持ちだった。


「爆豪、おはよう」
「物間くん、おはよう。どうかしたの?」

学校に着き、クラスメイトに挨拶をしていると、同じく林間合宿に行くB組の物間がB組の群れから離れて、憂に声をかけてきた。

「そういえば、A組は補習いるの?」
「えっ、うん。実技の方で…」

それを聞いた物間の表情が明るくなり、饒舌に喋りだした。

「え?A組補習いるの?つまり赤点取ったひとがいるってこと!?ええ!?おかしくない!?おかしくない!?A組はB組よりずっと優秀なハズなのにぃ!?あれれれれぇれ?」

すると拳藤が物間に近寄り、首に手刀を叩き込む。憂はその手際を見て感動すら覚えた。

「ごめんな」
「い、いえ…」

それを見ていた他のB組の女子たちが口を開く。憂は体育祭の騎馬戦の記憶がないため、初めて見る顔がほとんどだった。

「物間、怖」
「体育祭じゃなんやかんやあったけど、まァよろしくねA組」
「ん」

ぎこちなく憂が頭を下げると、B組の女子の一人が憂に話しかけてきた。

「あたし、取蔭切奈。ねえねえ、爆豪さんってさ、物間と付き合ってんの?」
「ええ!?」

どうしてそんなことを聞かれるのか分からず憂は顔を横に勢いよく振った。それをみた取蔭は残念そうな顔をしていた。

「なんだそっか。あの物間がやたら気にしてたから、付き合ってんのかと思った」
「そ、そんなわけないよ…」

少し顔を赤くしながら憂はそう答えた。憂にはまだ男の子と付き合うというのがどんなものなのかすら分からなかった。

「A組のバスはこっちだ。席順に並びたまえ!」
「わ、私行かなきゃ…」
「うん!また向こうでね!」

飯田の声が聞こえて、憂が言った。取蔭が憂に手を振ってB組の女子とバスに乗り込むのを見て、憂もA組のバスに乗り込んだ。


「さっき、B組の女子と何話してたんだ?」
「えっ」

バスに乗り込み、轟に手招きされる。窓側の席を譲ってくれたので憂は有難くそこに座った。すると、轟が先ほどの会話について聞いてきた。憂はどう答えようか迷って、逆に轟に質問を返した。

「ね、ねぇ…ショートくんはお付き合いしてる女の子とかいる…?」
「は?…いや、いねぇけど。いきなりどうした?」
「いや、B組の子たちにそんなこと聞かれたから…」

嘘は言っていない。憂は轟の前で物間の名前を出すのがなぜか恥ずかしかった。会話の後、二人の間に微妙な間が漂った。憂は誰が誰と付き合うとか、そういった色恋の噂にも無縁に生きてきたのだ。おそらく、轟も同じなのだろう。憂がなんとか轟に口を開こうとした時、前の席に座る葉隠と芦戸がしりとりを誘ってきたため、憂はそちらに意識を向けた。



一時間後、バスが止まり憂たちはパーキングエリアだと思いバスから出た。しかしそこにはパーキングエリアではなく、車が一台だけ止まっており、広い森が見えるだけの広場だった。

「何の目的もなくでは意味が薄いからな」

相澤先生がそう言ったのが憂に聞こえた。そして、一台止まってある車の中から、二人の女性と一人の男の子が出てくるのが見えた。

「よーーう、イレイザー!!」
「ご無沙汰してます」

相澤先生が頭を下げる。それだけでこの女性たちが相澤先生よりも目上なのが分かった。

「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシャーキャッツ!!」」

彼女たちがビシッとポーズを決める。憂はその完成度に思わず拍手した。隣にいたヒーローオタクの出久が、彼女たちは連盟事務所を構える四名一チームのヒーロー集団で山岳救助等を得意とするベテランチームであると言った。

「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」
「遠っ!!」

赤髪の女性が遠くにある山を指していった。憂たちに動揺が広がる。バスに戻ろうと瀬呂が指をさした。

「今はAM9:30早ければぁ…12時前後かしらん」

彼女はそのコスチュームについている尻尾を振りながら言う。クラスメイトたちは急いでバスに戻ろうとしていた。

「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」
「悪いね諸君」

相澤先生がそう言ったのを境に、憂たちが立っている地面が盛り上がり、雪崩のようにA組全員を崖の下に流し落とした。おそらく、プロヒーローどちらかの個性だろう。

「合宿はもう始まってる」

憂たちの目の前には深い深い森の入り口が広がっていた。

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