▽ 第25話
数日間の筆記試験を終え、演習試験当日になった。コスチュームに着替えた憂たちは先生方と対峙するように並んでいた。
「それじゃあ演習試験を始めていく。この試験でももちろん赤点はある。林間合宿行きたけりゃみっともねぇヘマはするなよ」
そう相澤が忠告して、憂は固唾を飲んだ。そして自身を鼓舞するように拳を握る。
「先生多いな…?」
耳郎がそう呟き、隣の葉隠が先生の数を数える。八人がそこに立っていた。
「諸君なら事前に情報仕入れて何するか薄々分かってるとは思うが…」
B組の拳藤から聞いた情報では対ロボットによる演習試験。憂は相澤先生の言葉に頷いた。すると相澤先生の捕縛武器がもぞもぞと動くのが見えた。
「残念!!諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!」
相澤先生の捕縛武器から出てきた校長先生にびくりと憂は肩を震わせた。
「校長先生!」
「変更って…」
「それはね…」
校長先生が捕縛武器を伝って地面に降りてくる。
「これからは対人戦闘・活動を見据えたより実戦に近い教えを重視するのさ!というわけで…諸君らにはこれから二、三人一組でここにいる教師と戦闘を行ってもらう!」
「先…生方と…!?」
既にチームと対戦する教師は決定しており、憂は青山、麗日と三人一組のチームとなった。対戦する教師は13号。USJで彼の個性は「ブラックホール」。一度それを見たがとても強力なもので、憂は途端に不安になった。
「よろしくね、二人とも!」
「う、うん」
「ああ」
麗日と青山と顔を見合わせた。相澤先生に言われ、バスに乗り込む。憂たちはUSJが演習ステージだった。バスを降りると見たことのあるドーム状の建物があった。中に入ると憂は嫌が応にもUSJ襲撃の事件を思い出して身震いし、完治しているはずの足が痛んだ気がした。
中心まで歩いて13号が試験の説明を行った。制限時間は30分。生徒の目的は「ハンドカフスを先生にかける」もしくは「誰か一人がこのステージから脱出」だ。戦闘訓練と似ているが、相手は先生、生徒にとっては超格上の存在だ。
「今回は極めて実戦に近い状況での試験。僕らを敵そのものだと考えて下さい」
会敵し、戦って勝てるならそれで良いが、実力差が大きすぎる場合、は逃げて応援を呼んだ方が賢明だ。憂はヒーロー殺しの事件でそれを痛いほど分かっていた。戦って勝つか、逃げて勝つか、生徒たちの判断力が試される試験のようだ。先生方にはハンデとして体重の約半分の重量の重りを装着することになっているらしい。
「戦闘を視野に入れさせる為ですか?」
「それはどうかな」
憂がそう聞くと、13号がヘルメットの中で笑った気がした。
「一人でも脱出出来たら良いんだよね?私たち、三人だから有利だよ!」
「エレガントに行きたいよね」
麗日が張り切って拳を握る。その隣で青山はマントをはためかせていた。
「逃走成功は指定のゲートを通らなきゃいけないんだよね。13号先生はゲート付近で待ち伏せしてそう…」
「そうだね…出来るだけ気付かれないように近づいて逃走した方が良さそう!」
憂に無邪気な笑みを向ける麗日に憂もつられて笑う。青山はこのマントよくない?と二人にマントを見せていた。
『皆位置についたね。それじゃあ今から雄英高1年期末テストを始めるよ!レディイイーー…ゴォ!!!』
「ぬおおおあと少しだったのにィ!」
麗日が重力に引っ張られながらそう叫んだ。隠れる場所が少ないUSJをどうにか進み、やっとゲートのすぐ側までたどり着いたが、13号に見つかってしまい、憂たちはブラックホールで捕まえられようとしていた。
「危ない危ない…逃がさないぞー!」
「吸いながら近づいてくる!」
「僕は戦闘は苦手だけど捕り物には一家言あるんだ!」
ずんずんと13号が柵に捕まる憂たちに強い重力で辺りのものを吸い込みながら近づいてくる。
「フフ…吸引力の変わらない唯一つの個性…」
「言いたいだけやん!ピンチだよこれえ!憂ちゃんどうしよ!?」
「とりあえず…!」
ちょうど足裏は13号の方を向いていた。憂は目くらましのための爆破を13号に浴びせかける。
「どんなものでも飲み込むぞ!」
すると煙も炎もすべてブラックホールに飲み込まれてしまった。爆破が効かないと分かった憂は考えあぐねていた。すると青山が突然口を開いた。
「僕のコスチュームね」
「へ!?」
「オヘソから伝導するんだよね………つまり…こんなのピンチでもなんでもないんだよねっ」
青山が膝を折って、レーザーを13号に膝から浴びせかける。しかしその光さえもブラックホールは飲み込んでしまう。
「光も飲み込むぞ!」
そして青山のマスクグラスがブラックホールホールに吸い込まれ、塵になってしまった。
「分子レベルで崩壊するぞ!」
「シャレにならない☆」
「何なん青山くん!?」
「僕は僕さっ」
青山に麗日が芸人の如く突っ込む。憂はそれ眺めていたが、頭を振り冷静に考えを巡らす。こんな時、彼なら…出久ならどうするだろう、と。
「ねえ、二人とも」
「ちょっと待って今…」
「ど、どうしたの…」
必死に掴まりながら青山に応える。青山は画風を変えながら言った。
「『緑谷出久ならーー…』って考えてただろ。君たち、彼のこと好きなの?」
「はあ!?」
「えっ!?」
青山にその言葉を言い当てられた瞬間、憂と麗日は同時に手を赤くなった頬に当てた。
「「「あ」」」
憂と麗日はとっさに手を離してしまい、重力に吸い込まれそうになってしまった。
「へ!?」
「わ!?」
13号が慌ててブラックホールの蓋を閉めたのが見えた。チャンスだ、憂は空中で爆破して態勢を立て直して、13号に思い切り飛びかかった。
『あっとここで麗日・青山・爆豪チーム……条件達成!』
麗日の見事な対人戦闘技術で13号にどうにかハンドカフスをかけることが出来た。以前の麗日では考えられないような見事な動きだった。憂は13号をの体を捕まえていなかったら拍手をしていたところだった。
こうして、数名を除き憂たちの期末テストは無事に終わりを迎えた。
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