爆豪くんの内気な双子の妹 | ナノ


▽ 第22話


あの後、飯田と出久が二人とも起き上がれるようになり、ヒーロー殺しを倒してしまった。憂は何もできなかった自分を恥じていた。

「さすがごみ置場あるもんだな、縄」
「轟くん、やはり俺が引く。君は憂くんも背負っているのだし…」
「おまえ腕ぐちゃぐちゃだろう」

憂はまだヒーロー殺しの個性が解除されておらず、轟に背負われていた。出血した手首はあらかじめ持っていた包帯で巻かれ、止血されている。憂は未だ力の入らない体に唇を噛み締めた。

路地裏から出ると、出久の職場体験先と思われるプローヒーローやエンデヴァーからの応援要請を受けたプローヒーローたちが集まってきた。

「三人とも…僕のせいで傷を負わせた。本当にすまなかった…何も…見えなく…なってしまっていた……!」

飯田は泣いていた。憂は大丈夫だよと笑った。ようやく動けるようになった体を轟の背から離す。涙を流している飯田にそっとハンカチを差し出した。


「伏せろ!」

グラントリノと呼ばれたご老人が叫んだ。上空を見ると、そこには脳無に似た敵が襲ってきていた。そしてその足で出久と憂を掴んで、上空へ飛び立った。

「きゃ!?」
「緑谷くん!憂くん!!」
「え、ちょ…わあああ!!」

憂は何が起こったか分からなかった。ふいに敵の動きが止まり、落ちていく。そこを誰かに助けられ、憂は顔を上げた。

「粛正対象だ…ハァ…ハァ…全ては、正しき、社会の為に」

そこにいたのはヒーロー殺しだった。

「うう…放っせ…!」

ずるりと、ヒーロー殺しのマスクが落ちる。憂はその素顔をしっかりと見た。憂と出久を抑えていた手がゆっくりと離れ、出久が憂を守るように背で隠す。

「贋物…正さねばーー…誰かが…血に染まらねば…!英雄を取り戻さねば!!来い、来てみろ、贋物ども。俺を殺していいのは本当の英雄だけだ!!」

憂だけでなく、その場にいたプロヒーローも皆ヒーロー殺しの迫力に完全に気圧されていた。

「ーー…!」
「……!」
「気を、失ってる」

ヒーロー殺しは立ったまま、気を失っていた。
後から聞いた話だが、この時ヒーロー殺しは折れた肋骨が肺に刺さっていたそうだ。誰も血を舐められていなかった。なのにあの場であの一瞬、ヒーロー殺しだけが、確かに、相手に立ち向かっていたのだった。



一夜明け、保須総合病院に憂たちは入院していた。憂の手首の怪我は出血は多かったが、傷はそれほど深くなく、四人の中では一番に怪我が少なかった。

「冷静に考えると…凄いことしちゃったね」
「そうだな」
「うん…」

四人とも病衣を着て、それぞれ手足に包帯を巻いてそれぞれのベッドに座っていた。違う病室の憂は轟のベッドに一緒に座っていた。

「あんな最後見せられたら、生きてるのが奇跡だって…思っちゃうね。僕の脚、これ多分…殺そうと思えば殺せてたと思うんだ」
「ああ、俺と憂はあからさまに生かされた」

憂は自分の切られた両手首に巻かれた包帯をみる。この傷が深ければ出血多量で死んでいてもおかしくはなかった。

「あんだけ殺意向けられて尚立ち向かったお前はすげえよ。救けにきたつもりが逆に救けられた。わりィな」
「いや…違うさ俺はー…」

飯田が申し訳なさそうに顔を落とした。その時、病室の扉が開いた。

「おおォ、起きてるな怪我人共!」
「グラントリノ!」
「マニュアルさん…!」

出久と飯田の職場体験先のプロヒーロー二名の後ろに、もう一人立っているのが憂に見えた。憂は慌てて立ち上がった。

「保須警察署署長の面構犬嗣さんだ」
「掛けたままで結構だワン。君たちがヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね」

署長は憂たち資格未取得者が保護管理者の指示なく個性で危害を加えたことは相手がヒーロー殺しであっても規則違反になると言った。その言葉に轟は声を上げた。

「規則を守って見殺しにするべきだったって!?」
「ショートくん!抑えて…っ」
「結果オーライであれば規則などウヤムヤで良いと?」
「ー…人をっ…救けるのがヒーローの仕事だろ!」

そう言った轟に、署長はため息を吐いた。

「だから…君は卵だまったく…良い教育をしてるワンね雄英も…エンデヴァーも」
「この犬ー…」
「だめだよ、ショートくん!」

父親の名を出された轟は署長に詰め寄る。しかしそれはグラントリノによって阻止された。

「以上がーー…警察としての意見」

署長の話ではまだヒーロー殺しの件は公表されておらず、ここで握り潰せば、処罰を受けることなく、英断と功績も誰も知られることはなおという。憂たちは全員一致で、公表しないようにと頭を下げて頼んだ。

「大人のズルで君たちが受けていたであろう称賛の声はなくなってしまうが…せめて、共に平和を守る人間として…ありがとう!」

そういって頭を下げた署長に四人とも顔を見合わせて笑った。

思わぬ形で始まった路地裏の戦いはこうして人知れず終わりを迎えた。

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