爆豪くんの内気な双子の妹 | ナノ


▽ 第20話


「それで憂はどうしたいんだ?」
「えっ」

エンデヴァーヒーロー事務所から指名が来ていたことを轟に話すとそう問われて、憂は反応に困ってしまった。

「わ、私は…分からない」
「なら自分で決めろ、この件は俺は口出ししない」

そう言って席を立った轟の背を見つめて、憂はリストと希望用紙を握りしめた。



放課後一人で校内を歩いていると、角で誰かとぶつかった。慌てて頭を下げると、上から声が降りかかってきた。

「すいませ、」
「あれ、誰かと思ったらA組の3位女子じゃないか」
「え、えっと…どちら様ですか」

顔あげるとそこには優男風の男子が立っており、言葉から体育祭でのことだと考えられる。憂はこの顔をどこかで見た気がしたが、思い出せなかった。

「体育祭でのことなら、私騎馬戦の記憶がなくて…」
「それでよく本戦に出場出来たものだね、僕なら到底無理だなぁ」

せせら嗤うかのような物言いに憂は思わずムッとした。この人は苦手だ、憂はそう直感した。

「まあでも君の個性、良かったし…結果を出してるしね実際」
「あっ…もしかして、入試の時の?」
「今頃思い出したの?鈍いね」

その時、憂は思い出した。彼は入試の時に触れられた、コピーの個性の人だった。

「僕はB組の物間寧人」
「A組の爆豪憂です…!」
「知ってるよ」

それじゃあと手を振って歩いていく物間に、憂は声をかけた。


「エンデヴァーから指名!?」
「しー!しー!」

どうしようもなくなった憂は、物間に相談することにしたのだ。自動販売機で飲み物を買って、ベンチに並んで座る。ジュースは彼が奢ってくれた。

「ふーん、いいんじゃないの」
「でも私、ショートくんと友達だから…」
「トップの人がそれだけで選ぶわけないだろ?そんなのも分からないの?」

ジュースを一口飲んで、彼はそういった。確かに、轟から聞く限り彼の父親は息子の友達だからと言って贔屓するような人間ではないと憂は思った。

「体育祭で、君は僕らの上に立ったんだ。その自覚をしっかり持ってもらわないとこっちが迷惑だよ」

物言いは厳しいが、憂は物間の言う通りだと思った。憂はジュースをぐっと飲み干して、缶を握りしめた。

「ありがとう、物間くんに相談して良かった…私、決めた!」

しっかりと「エンデヴァーヒーロー事務所」とか希望用紙の第一希望の所に書き、憂は笑顔で物間に礼を言った。その笑顔を向けられた物間は驚いたように瞬きして、「ああ」というだけだった。

「本当にありがとう!またね」

意気揚々と歩き出す憂の背を物間はじっと見ていた。



翌日、憂は朝一番に轟の元へ向かい、エンデヴァーヒーロー事務所に決めたと話した。

「親父のところに決めたのか」
「うん、No.2ヒーローをちゃんと見ておきたくって」

憂は轟を見た。彼は一瞬驚いたような顔をして、そして目を細めた。

「…俺も同じだ」
「えっ?」
「俺も、親父のところへ行く」

以前の彼だったら、職場体験で父親の事務所を選ぶなんてことはなかっただろう。憂に話をしてくれてから、彼は何かが明確に変わったのだ。憂はそう感じた。

「じゃあ、職場体験でもよろしくね」
「ああ」

しっかりと目を見合わせ、希望用紙を提出しにくために二人で職員室に向かった。



職場体験当日、憂たちは雄英の最寄駅にいた。

「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」

自身の出席番号が書かれているケースを持って並ぶ。相澤先生が送り出し、各地に向かうため、クラスメイトたちはバラバラに歩き出した。

「……」
「どうしたの?ショートくん
「いや、行くか」
「うん!」

同じくケースを持った轟の隣に並ぶ。そうして憂の職場体験が始まった。



「前例通りなら保須に再び、ヒーロー殺しが現れる。しばし保須に出張し活動する!!市に連絡しろぉ!」

そうエンデヴァーが合図すると全員が迅速に動き出す。流石はNo.2ヒーロー事務所だと憂は思った。憂はUSJで壊れていた足の部分が直ったコスチュームを着ており、轟は炎も使うと決めたからなのか、USJの時とは違うコスチュームを着ていた。それを見たエンデヴァーは満足そうにしていた。憂はこの人は親バカなのではないかと思った。

保須に移動して二日目、エンデヴァーについて行き市街地周辺のパトロール。ヒーロー殺しが現れているという情報もあって、他のヒーローの姿も多く見かけた。

「焦凍!しっかりついてこい!」
「……」
「ショートくん…」

轟は父親に事あるごとに名を呼ばれるのを辟易していた。そんな轟を憂は宥めていた。そんな憂を見て、エンデヴァーが口を開いた。

「やはりな」
「?」
「君は焦凍のサイドキックに相応しい」

その言葉を聞いて、轟が一歩前出た。しかし、憂がそれを制止して、エンデヴァーを前にしっかり目を見据えて言った。

「私は…プロのヒーローになって、彼と対等の立場で戦いたいです」
「…そういうところが好ましい」

パトロールを続けるぞ、と言ってエンデヴァーは踵を返して歩き出した。憂は轟と顔を見合わせて、一緒に歩き出した。


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