▽ 第15話
「というわけで鉄哲と塩崎が繰り上がって16名!!組はこうなりました!」
憂はトーナメント表を見上げる。初戦は芦戸と当たるようだった。すると、チアガール姿の芦戸が駆け寄ってきていた。
「負けないよ!憂ちゃん!」
「う、うん、よろしく」
芦戸の個性は『酸』で、運動神経もA組トップクラスだった。憂は初戦から強敵と当たることになる。拳を握りしめて、気合を入れた。
『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間、楽しく遊ぶぞレクリエーション!』
そうはいっても、憂は大勢の前で何かを成すことも一対一で戦うこともしたことはなかった。レクリエーションで楽しくチアガール姿で応援する葉隠に習って、応援することで緊張を解きほぐそうとしていた。
そしてあっという間にときは来た。
『ヘイガイズアァユゥレディ!?色々やってきましたが!!結局これだぜガチンコ勝負!!』
セメントスがフィールドを作り出していた。憂は順番がまだなので、葉隠と共に応援席から一回戦の出久対心操を見守った。
「頑張って、出久くん…!」
『レディィィィイイ START!!』
出久はスタートと同時に走り出した、しかしそれは一瞬で止まる。耳郎の隣に座る尾白が尻尾を振りながら頭を抱えた。
『オイオイ大事な緒戦だ盛り上げてくれよ!?緑谷開始早々ーーー完全停止!?』
出久はビクともせず、止まっている。やはり、あの心操の個性なのだろう。憂は尾白だけでなく、自分も出久に何か言えば良かったとひどく後悔した。
「振り向いてそのまま、場外まで歩いていけ」
その言葉通り、出久は振り向いて歩いていく。あと一歩で場外というところで、出久の周りから暴風が巻き起こった。おそらく、個性を暴発させたのだろう。彼の個性は使うと代償があるのか、指はひどく腫れ上がっていた。
結果は出久が心操を場外に押し出して、出久が二回戦に進出することとなった。拍手をしながら憂は出久の怪我を心配する。高校に上がってから彼はいつも怪我ばっかりだった。
「大丈夫かな…」
「大丈夫だよ!リカバリーガールも来てるって言ってたし!」
「うん、そうだね…」
葉隠に励まされながら、次の試合の対戦表を見る。次は瀬呂と轟の試合だった。轟の姿はどこにもなく、控え室に行っているのだろう。一言ぐらい何か言いたかったと憂は後悔した。
轟対瀬呂、塩崎対上鳴、どちらも瞬殺で終わってしまったので、憂は試合に向けて控え室に行くこととなった。
「頑張ってね!」
「うん、行ってくる」
葉隠に背中を押され、席を立つ。深呼吸して、歩き出した。
『結構いいとこいってるけどなんか地味だぞ!裸足で駆けるヒーロー科爆豪憂!!対、それはエイリアンクリーンか!?同じくヒーロー科芦戸三奈!!』
事前に靴と靴下は脱いできた。まさしく裸足で駆けているので彼の言っている言葉に違いはない。
「なんかひどいねー!」
「う、うん」
大観衆の中、スタジアムの真ん中に立つ気分を憂はあたらめて実感した。すぐにでも降りたい。そんな気分だった。しかし、やるしかない。憂にはある目的があったのだ。
『START!!』
速攻、爆速で相手との距離をつめる。そして目の前で目眩しの爆破。相手が怯んだところを、体を掴んで、爆破で駆けていき、場外に放り込んだ。
「芦戸さん場外!二回戦進出爆豪さん!」
ほっと息をつく、速攻場外を狙わなければ、憂の力では芦戸には勝てない。そう踏んだのだ。
「爆豪が戦闘訓練でやった目眩しじゃん!くぅー!悔しい!」
「ご、ごめんね…芦戸さん強いからこうでもしないと勝てないかなって…」
「謝んないでって!それに、三奈でいーよ!」
「三奈ちゃん…ありがとう」
負けたというのに芦戸は笑って手を差し出してくれた。憂もそれに習って手を差し出す。互いに微笑み合う。それ見ていた観衆たちも拍手で二人を讃えてくれた。
次の次は兄と麗日の試合だった。目的のためにもしっかり見ないと、憂は応援席に戻っていった。
兄と麗日の試合は兄の勝利で終わった。憂は改めて兄の強さを思い知った。同じ個性でもこうは戦えない。そう思ったのだ。
「私も、やらなきゃ」
「できるよ!憂ちゃんなら…爆豪くんに勝ちたいんでしょ?」
「えっ」
一言も葉隠には言っていなかった。憂の体育祭の目的、それは兄に勝つことだった。
「見てれば分かるもん。友達でしょ!」
「…うん、そう、だね」
なんだか泣きそうになって憂は目元を抑えた。頑張らなきゃ、そう心に誓って。
そして、二回戦緒戦、轟と出久の試合が始まる。
『今回の体育祭両者トップクラスの成績!!まさしく両雄並び立ち今!!緑谷対轟!! START!!』
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