爆豪くんの内気な双子の妹 | ナノ


▽ 第14話


「憂、チームを組まないか」

轟が憂の手を取って言った。しかし、憂はぼんやりしたまま返答がない。

「憂…?」
「悪いな、彼女、俺と組むから」

その手を払って言ったのは二週間前の放課後、A組に宣戦布告をしに来た心操と呼ばれる男だった。

「一足遅かったな」

そう言って、心操はにやりと笑って憂を連れて行ってしまった。轟は憂の背をじっと見つめ、踵を返して自分のチームに戻っていった。



「……ーー…憂ちゃん!」
「えっ?」

次に憂が気がついた時、目の前の景色は違っていた。

「尾白くん…?」
『3位鉄て…アレェ!?オイ!!!心操チーム!!?いつの間に逆転してたんだよオイオイ!!』
「ご苦労様」

心操と呼ばれた彼が憂の方に手を置いて去っていく。憂は何が何だか分からなかった。

「尾白くん、これどういうこと…?」
「俺にもわからない…ただギリギリ終盤までの記憶しかなくて」

二人して困惑した顔を見合わせる。記憶を消す個性とは考えにくい。気絶したまま騎馬戦が出来るとも思わない。もしかしたら操られていたのかもしれない。

『4位緑谷チーム!!以上4組が最終種目へ…進出だああーーー!!!』

プレゼントマイクの声で一緒に組もうと思っていた出久が最終種目へ進出すると聞いて、憂は心底安堵した。何が起きたか分からなかったが、彼が勝ったのならそれでよかった。


1時間ほど昼休憩挟んでから午後の部ということで、憂は釈然としないまま、手招きする葉隠の元へやってきた。

「悔しいよー!憂ちゃんおめでと!」
「う、うん」

葉隠は上半身裸で騎手をしていたらしく、脱いだ上着を回収して着ていた。憂も脱いだ靴と靴下を取りに行き、しっかり履いてから大食堂へ向かう。

「でも騎馬戦中、なんだかいつもと違ったね」
「うん、私にも分からなくて…記憶がないの」

そういえば、葉隠も憂と似た意見を寄せてくれた。洗脳、そういう個性を持つ生徒もいるのだろうか。

「考えるのは後!まずご飯食べよ!せっかく本戦出れるんだから、私は憂ちゃんに頑張って欲しい!」
「う、うん…私、頑張る」

おそらく笑っているであろう友人に微笑み返す。そうだ、折角プロに見てもらえる舞台だ。自分の力で勝ち上がれなかったのは悔しい、でもそれ以上に戦って力を試してみたいという欲が、憂は強かった。

「あ、お二人とも、少しよろしいですか?」

そこへ、副委員長である八百万がやってきた。二人は顔を見合わせて首を傾げた。



『どーしたA組!!?』

そうプレゼントマイクが言いたくなる気持ちも分かった。憂を含め、A組の女子全員が今やチアガールの衣装に身を包んでいた。

「峰田さん、上鳴さん!!騙しましたわね!?…何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私…」
「アホだろアイツら」

項垂れる八百万を麗日が慰めるように背に手を置く。耳郎はチアガールのポンポンを投げ捨てる。憂は引きつった笑いを貼り付けることしか出来なかった。

「まァ本戦まで時間空くし、張りつめててもシンドイしさ…いいんじゃない!!?やったろ!!」
「透ちゃん…」
「透ちゃん好きね」

楽しそうにポンポンを振り回す透を見て、憂は苦笑を浮かべ、ポンポンを軽く振った。



「俺、辞退します」

最終種目はトーナメント式のバトルだった。その組み合わせ決めのくじ引きの前に、尾白が手を挙げた。

「尾白くん!何で…?」
「せっかくプロに見てもらえる場なのに!!」

すると尾白は騎馬戦のことを語った。最中の記憶がないこと、おそらく騎手をしていた心操の個性だということを。そして拳を握り、改めて辞退する意思を示した。

「気にしすぎだよ!本戦でちゃんと成果を出せばいいんだよ!ね、憂ちゃん」
「う、うん」
「違うんだ…!俺のプライドの話さ…俺が嫌なんだ。あとなんで君らチアの格好してるんだ…!」

改めて言われると憂は途端に恥ずかしくなり、持っていたポンポンでそっと体を隠す。
そしてもう一人の騎馬をしていたB組の男子も辞退を申し出て、それをミッドナイトは承諾した。そして目尻を拭いながら、尾白は憂に言った。

「俺らは辞退するけど、憂ちゃんは頑張って欲しい」
「尾白くん…でも私…」

憂は悩んだ。もちろん、憂にもプライドはある。だが、彼らのように潔く辞退すると言えるほどの勇気もなかった。

「俺らのプライドは憂ちゃんには関係ない。だから、俺の分まで頑張って欲しいんだ」

そう言って笑った尾白に、憂は深く頷いて、トーナメントのくじ引きに進み出た。

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