▽ 第12話
雄英体育祭、本番当日を迎え、憂たち1-Aは控え室にいた。
「皆、準備は出来てるか!?もうじき入場だ!!」
クラス委員長の飯田の声を聞いてさらに緊張が高まった憂は峰田に教えられるままに手に人、人と書いてて飲み込んでいた。
「爆豪!ほら、こうやって人、人って書いてな…」
「う、うん…ありがとう峰田くん」
峰田の言葉を聞きながら、ちらりと目の前の出久の背中を見る。彼も緊張しているようで、深呼吸しているのか肩が上下に上がっていた。
「緑谷」
「轟くん……何?」
突然、轟が出久の元へやってきた。憂は何事かと腰を上げて、轟のそばへ寄った。
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」
「へ!?うっうん…」
「ショートくん…?」
轟の腕にそっと触れようとした憂は軽く振り払われ、手で阻まれた。そして轟はじっと出久を見つめ、続けた。
「おまえ、オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはねえが…お前には勝つぞ」
轟が出久に向かって言ったその言葉に憂は目を見開いた。完全なる、宣戦布告だった。
「急にケンカ腰でどうした!?直前にやめろって…」
見かねた切島が止めるように轟の方に手を置くも、振り払われる。
「仲良しごっこじゃねえんだ。何だって良いだろ」
その言葉に憂は胸を痛めて、一歩下がった。自分のやっていることは仲良しごっこだったのかと、憂は唇を噛んだ。
轟に宣戦布告された出久はネガティブに大半の人には敵わないと言った。しかし、それだけではなかった。
「でも…!!皆他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって…遅れを取るわけにはいかないんだ。僕も本気で獲りに行く!」
そう言った出久の言葉で憂は顔を上げた。そこには憂の知らない出久が立っていた。
『雄英体育祭!!ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!』
その言葉を聞いて憂は体育祭がついに始まるんだと緊張でいっぱいになった。そして、クラスの皆と一緒に中央に向かって歩き出す。
『どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!?敵の襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!!1年!!!A組だろぉぉ!!?』
通路からスタジアムに顔を出すと、たくさんのヒーローやマスメディアがいるのが憂の目にもわかった。スタジアムは満員で、この中で競技をするのかと思うと憂は今にも倒れてしまいたい気持ちだった。
「選手宣誓!!」
「18禁なのに高校にいてもいいものか」
「いい」
際どすぎるコスチュームで身を包んだミッドナイトが主審らしい憂はその姿にどきどきして目を当てられないでいた。
「静かにしなさい!!選手代表!!1-A爆豪勝己
!!」
入試一位通過の兄が台に上がる。憂は兄が何を言うのかとはらはらしながら見守った。
「せんせー、俺が一位になる」
「絶対やると思った!!」
切島が憂の気持ちを代弁するかのように叫んだ。兄なら一位以外を取るつもりはなさそうだと憂は思っていた。兄が笑って言っていないことだけが唯一憂には引っかかった。
ブーイングを物ともせず、兄は表台から帰ってきた。その顔を見て、憂は兄が自分を追い込んでいるのだと分かった。
「さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう!いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!!さて運命の第一種目!!今年は…」
固唾を飲んで見守る。そして映された文字は障害物競走だった。計11クラスでの総当たりレース、コースはスタジアムの外周約4km。コースさえ守れば何をしたって構わないらしい。
憂は最初から全力で行くつもりだった。靴と靴下を脱いで、位置につく。
「スターーート!!」
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