爆豪くんの内気な双子の妹 | ナノ


▽ 第10話


オールマイトに拳を打ち込まれた脳無はUSJの天井を突き破り外に放り出された。

「……漫画かよ。ショック吸収をないことにしちまった。…究極の脳筋だぜ」

切島が言った言葉を聞きながら憂は言葉も出ないほど、トップの力を、プロの世界を間近で見て圧倒されていた。おそらく、横に並んでいる兄や轟もそうであろう。

「やはり衰えた。全盛期なら5発も撃てば充分だったろうに、300発以上も撃ってしまった」

血反吐吐いても、それでも笑っているオールマイトにつられて憂も笑う。すごすぎる、この人は。

「さてと敵、お互い早めに決着つけたいね」
「チートが…!」

オールマイトの剣幕に完全に気圧されている敵は動かない。こちらからの距離も離れている。

「さすがだ…俺たちの出る幕じゃねえみたいだな…」
「緑谷!ここは退いた方がいいぜもう却って人質とかにされたらやべェし…」
「出久くん…?」

出久はブツブツと何かを呟いていた。不安げに憂が見つめても、その目はオールマイトだけを映していた。

そして次の瞬間、一気にオールマイトと敵がいる方へ飛んだ。早すぎて手を伸ばす暇すらなかった。

「出久くん!!?」
「な…緑谷!!?」

手の届かない向こうで、手の敵の右手がモヤを介して出久に襲いかかる。あの手はダメだ、触れたものを崩してしまう。憂の体が勝手に出久の方へ走った。しかしその時。

「!!!!」
「来たか!!」

銃弾が敵の手に命中した。

「ごめんよ皆、遅くなったね。すぐ動ける者をかき集めて来た」
「1-Aクラス委員長飯田天哉!!ただいま戻りました!!!」

入り口の方に目をやる。そこには応援を呼びに行ったのであろう飯田と、プロヒーローの教師たちが立っていた。

もう大丈夫なんだ、そう確信した憂はへなへなと地面に腰を下ろした。



捕縛出来なかった敵が黒いモヤを通して逃げて行った。憂は完全に力が抜け、立ち上がれないでいた。

「爆豪」
「あ?」
「お前じゃない、…憂だったか?足、怪我してるだろ」

兄ではなく、轟が憂を呼んだ。憂の足は一部、あの手の敵によって崩されていたのだ。それを思い出すと、アドレナリンが出ていたのがなくなり、急に痛みが襲ってきた。

「だ、大丈夫だよ。私より他の人の方が…」
「いいから、黙ってろ」

憂はとっさに戦闘訓練の時のことを思い出した。そしてその想像通りに、また横抱きにされてしまった。憂は今度も顔を両手で覆った。



轟が教師陣のところまで憂を運び、憂は保健室で治癒してもらえることになった。保健室につくと、オールマイトが寝ているベッドにはカーテンが引かれており、様子は分からなかった。

「ほい、これで歩けるよ」
「ありがとうございます」

体力がすでに消耗しているため、全てを治し切ることは出来なかったが、崩れて見ることも出来なかった足はからはまだ見れるものになった。

「こんな個性…酷いね」
「はい…でも、私より他の方が…」

そういうとリカバリーガールはペッツを取り出して、一粒憂に渡す。

「あんたも頑張ったんだろう?胸を張ればいい」
「はい。…では、教室に戻ります」

礼を言って、席を立つ。カーテンの方を一度だけ見て、退室した。



「轟くん」

着替えて教室に戻り、目的の人物を探す。皆USJでは何をしていたのか話している最中で、隣の教室では一人ずつ事情聴取が行われているらしかった。

「ありがとう。二度も救けられちゃった」
「救けたつもりはねえ」
「それでね、あの…」

本当に言っていいのだろうか、と口籠る。轟は不思議そうに首をかしげていた。

「とと友達になってくれませんか?」
「は?」
「いや!あの!嫌だったらいいんですごめんなさい!」

あわあわとしながら手を振る。なんと恥ずかしいことを言ってしまったんだろうと憂は自分を恥じた。憂が彼と友達になりたいと思ったのは、彼に救けられてばかりで、いつか救けてあげられるようになりたいと思ったからだった。

「誰も嫌なんて言ってねえだろ」
「えっ」
「いいぜ、別に」

あっけなく、彼は友達になることを許してくれた。こうして、憂に初めての男友達が出来た。

「ありがとう!轟くん」
「じゃあ憂って呼んでもいいか?爆豪と紛らわしいし」
「うん、もちろん」

ぎごちなく笑顔を浮かべる。憂は男子にあまり名前で呼ばれたことがない。大抵は爆豪の妹、という認識だからだ。

「お前も下の名前で呼べよ」
「えっとじゃあっ…ショートくん…!」
「ショート?」
「ダメかな…かっこいいと思ったんだけど…」

「いや、いい」

彼は口元を隠してくすくすと笑った。初めて見た彼の笑った顔はとても綺麗で、憂はなんだか見てはいけないようなものを見てしまったように感じた。

「よろしくな、憂」
「よろしく、ショートくん」


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