▽ 第8話
入学して学校にも慣れ始めた頃。今日の昼からはヒーロー基礎学、オールマイトの授業だ。わくわくしながら待っていると、扉が開かれた。そこにいるのはオールマイトではなく、担任の相澤先生だった。
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイトそしてもう一人の3人体制で見ることになった」
「ハーイ!なにするんですか!?」
「災害水難なんでもござれ、人命救助訓練だ!!」
相澤先生がRESCUEという文字が書かれたプレートを掲げる。それを見たクラスメイトたちはざわざわと各自話し始めた。
「楽しみだねー!」
「そ、そうかな」
葉隠も後ろに振り返り憂に元気よく話す。憂は自信があまりなかった。これまで人助けらしい人助けをしたことがない。ちらりと二席後ろの緑谷に目をやったが、途中で兄と目が合ってしまったので慌てて向き直った。
「おいまだ途中」
ぴたりと喧騒が止む。流石は相澤先生だ。
相澤先生の指示に従って、コスチュームに着替え、訓練場へのバスに乗り込む。憂は飯田の指示に従い、出席番号順に兄の隣に座った。
クラスメイトたちが個性の話で盛り上がっている中、憂は緊張していた。家の外で兄と隣に並んで座ることなど、あまりなかったからだ。そわそわとしていると、クラスメイトたちの話がこちらに飛んできて、憂はびくりとした。
「派手で強えっつったらやっぱ爆豪と轟だな」
おそらく兄のことだろう。憂のコスチュームは兄のような手榴弾型ではなく、どちらかといえば飯田寄りの形状に近かった。
「ケッ」
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」
「んだとコラ出すわ!!」
「ひっ」
カエルのような風貌の蛙吹に言われてすぐにキレた兄に憂はびくりと身体を通路側に寄せて縮こまる。金髪の上鳴が火に油を注いだことにより、その怒りはさらに激しくなった。兄がクラスメイトたちにイジられている。憂には信じられない光景だった。さすが雄英、と憂は思った。
「すっげーー!!USJかよ!!?」
目の前に広がるのは遊園地並みの大きさ、アトラクションのような演習場にクラスメイト一同驚きに声を上げた。
「水難事故、土砂災害、火事…etc. あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も……ウソの災害や事故ルーム!!」
頭文字をとってUSJと言った彼は、相澤先生とオールマイトともう一人の先生、スペースヒーロー13号だった。災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーローらしく、緑谷の隣にいた麗日は嬉しそうに叫んでいた。
「えー始める前にお小言を一つ二つ…三つ…四つ…」
13号はヒーローに大切なことを語って聞かせてくれた。その個々の持つ個性の使い方。憂の個性は兄と同じ爆破である。兄が戦闘訓練で放った大爆破も憂もその気になればすることが出来るのだ。つまり自分も、人を殺してしまうような力を持っているということだった。
「君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。救ける為にあるのだと心得て帰って下さいな。以上!ご静聴ありがとうございました!」
「ステキー!」
「ブラボー!!ブラーボー!!」
13号がぺこりと礼をする。すると生徒たちはわっと声を上げたり拍手したりしていた。憂も感銘を受けて、控えめに拍手していた。その時。
「一かたまりになって動くな!」
「え?」
「13号!!生徒を守れ」
相澤先生の言葉が響き渡る。生徒たちはぽかんと口を開けて相澤先生を見ていた。憂は広場の噴水の前から何か黒いモヤの中から人らしきものが出てくるのが見えた。
「何だアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「動くなあれは敵だ!!!!」
いつになく真剣な相澤先生がゴーグルを装着して叫んだことにより、否応なくそれが現実に敵が学校に侵入してきているということを知らされる。
「敵ンン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」
敵が入り込んできたのに、センサーが反応していない。校舎と離れた隔離空間、そこに少人数が入る時間割。何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲というのは明白だった。
相澤先生が的確に指示を出す、そして生徒を逃がす為に一人で戦おうと捕縛武器を手に飛び出していった。間近で見る担任のプローヒーローの戦いに憂はついのめり込む。
「憂ちゃん!いこう!」
葉隠が憂の手を取るそれに引っ張られるように13号の後について脱出しようと試みる。
「させませんよ」
「!!」
生徒と13号の前に黒いモヤが立ちはだかった。ただのモヤではなく、そういう個性を持っている人間だということがわかった。
「初めまして、我々は敵連合。僭越ながら…この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
オールマイトを殺す、そう言った彼の言葉を憂はすぐに理解できなかった。
ゆらりと黒いモヤが散って広がる、そしてすぐに兄と切島が相手を攻撃したがつかの間、モヤが二人だけでなくて生徒全員を覆った。
「散らして、嬲り、殺す」
葉隠と手を繋いでいた憂は彼女を離さないよう手にしっかり力を込め、次に来るであろう衝撃に目を閉じて耐えた。
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