轟さんの愛人男子高校生 | ナノ


▽ 恋人じゃなくても



愛人、その言葉を聞いてから炎司さんには直接会ってはいなかった。会いたいと思う反面、顔を見れば全てをぶちまけてしまいそうだったから。


「すいません、サポート器具の開発で忙しくて」
『またか…』

電話越しでも彼の機嫌が悪いことが伺える。当たり前だ。もう3ヶ月も会っていないのだ。こうもあからさまでは、きっと相手も気がついている。でもどうしようもないのだ。

このまま、この関係が終わってしまえばいい。そうしたら、他の関係になれるかもしれない。そう、願った。



「ただいま」

いつも通りに玄関を開けると、そこにはこの3ヶ月見ていなかった大きめの靴があった。どきん、と心臓が大きく高鳴った。急いでリビングまで向かう。勢い良く扉を開くとそこには彼がいた。

「…どうして」
「お前がいつまで経っても拒むからだ」

本当はもっと早くに気がついていたのだろう。たまたま予定が空いていたのが今日だったのかもしれない。それでも、今日は俺の誕生日だったから、嬉しさで胸が張り裂けそうだった。

「何かあったのか」
「っ、」

さっと目をそらす。3ヶ月ぶりでは心臓に悪すぎる。何一つ変わっていない、顔も声も、俺の頬を赤らませるのには十分だった。

「聞いているのか」

肩を捕まれて恐る恐る顔を上げる。機嫌の悪そうな顔だ。でも、どうしても愛おしくて今すぐにでも口付けたい衝動に駆られた。ゆっくり目を閉じる。

彼はそれを察したのだろう。ゆっくり近づいてきて、熱が伝わる距離まで近づいてきたが、すぐにそれは離れてしまった。
そして3ヶ月の間に伸びてしまった髪を撫でた。


「……髪が長くなったな、切れ」

女のように髪にこだわりはない。でも分かってしまった。姿までもこの人は俺にお父さんを重ねているのだ。記憶にあるお父さんはいつも髪が短かった。

高揚していた気分が一気に叩き落とされた。もう我慢出来なかった。

「俺はお父さんじゃない…」
「なに?」

ぽつりと呟いた言葉を、彼は拾った。俺は俺を見て欲しかった。

「俺を見てください」

驚いたように彼が目を見開いた。そして、叫ぶように思いをぶちまけた。

「俺は貴方が好きなんです!だから…っ、俺自身を見て下さい!」

言った。言ってしまった。俯いて、彼の言葉を待つ。彼からの言葉はなんでも良かった。否定でも肯定でもしてくれれば、今の関係から何かしら変わると思ったからだ。

「お父さんじゃなくて、俺を、杏を…!」
「……」

しかし、彼は何も言わなかった。何も言わず、ただ部屋から出て行ってしまった。玄関が開いて、閉まる音がする。終わった、何もかも。ずるりと崩れ落ちて床にへたり込む。目の前が滲んで、ぽたり、ぽたりと雫が落ちていく。


「う、うう……っ」

ぽろぽろ咲いて溢れたアネモネをぐしゃりと自分で潰した。
その夜は最悪な誕生日となった。

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