轟さんの愛人男子高校生 | ナノ


▽ 父親じゃなくても


お父さんが死んだ。
交通事故で、驚くほどあっけなく。

「今時、交通事故死なんて」

個性発現黎明期より交通事故の死亡率が大幅に減ったことは知っていた。だが、事故率とは別のものだ。お父さんや自分のような、なんの攻撃力も防御力も持たないような個性を持つ人間は、車に跳ねられたらあっさりと死んでしまう。

「どうするのかしら」
「施設行きじゃないの?身寄りはいないって聞いたわ」

お父さんは親から勘当されていたらしく、自分には身寄りが全くと言っていいほどいなかった。お父さんがいた頃は母親や祖父母がいないことをそれほど気にしたことはなかったが、一人ぼっちになるとそれを痛感した。
唯一、お父さんと交流があったらしいヒーローが葬儀を代わりに取り持ってくれ、父さんの葬儀はあっさりと終わってしまった。

「かわいそうに」



煙になったお父さんを見て、ぼんやりと涙を流す。これでもう、自分は世界でひとりぼっちになってしまったのだ。

「似ているな」

威厳のある声がした。隣に立っていたのは、自分の代わりにお父さんの葬儀を取り持ってくれたヒーローだった。

No.2ヒーロー、エンデヴァー。
どうして彼のような人が、お父さんと知り合いなのかを今更ながら不思議に思った。

「俺のところへこい」

彼が手を出した。どうして、と言葉にすると彼は悲しそうな、苦しそうな不思議な顔で笑っていた。

「お前が奴と似ているからだ」

父と似ているというのはただ純粋に嬉しかった。この時の自分はその言葉の本当の意味も知らず、喜んでいた。
そうして、彼の差し出した手をとった。



そのままの足で彼の車に乗り込んだ。今まで生きてきて座ったことのないような、ふわふわの座椅子に包まされてどっと疲労感が襲ってきた。隣で何か電話で話している彼の内容も聞き取ることができないまま、夢の世界へ旅立った。視界の端にふわりとレンゲソウが舞った。

そして、次に目を覚ますと高級マンションと呼ばれるような建物の前にいた。聞くところによるとすぐに俺のために用意してくれたらしい。彼の実家ではない、そう聞いて安堵もしたが不安もあった。

「今日からここがお前の家だ」

俺の肩に付いていたレンゲソウの花びらを払いながら彼は言った。

薄ぼんやり、お父さんと暮らしていた狭いアパートを思い出しながら、杏はゆっくり頷いた。

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