▽ 幼馴染の彼ら
「ウチの中学から雄英進学者が三人も出るとは!特に緑谷は奇跡中の奇跡だなあ!」
二人の担任が快活に笑った。失礼なことを言っている自覚がないのだろうか、と心はじとっと相手を睨んだ。
隣の勝己くんはずっと出久くんを信じられないようなものを見る目で見ていた。
「どんな汚え手を使やあ無個性が受かるんだ、あ!!?」
「っ…!!」
先生への報告を終え、勝己くんは私の手ではなく出久くんの腕を乱暴に掴んで校舎裏まで連れてきた。来るなり彼を壁に押し付け胸ぐらを掴んだ。
「史上初!唯一の史上初雄英ヒーロー科進学者。俺の将来設計が早速ズタボロだよ!他行けっつったろーが!!」
勝己くんは怒りのままに叫んだ。すると、いつもは抵抗などしなかった出久くんが、勝己くんの腕を掴んだ。
「いっ…っ、言ってもらったんだ」
いつもは何も言わない幼馴染の彼が口を開いた。勝己くんが目を見開いた。私もびっくりとして出久くんを見つめた。
「『君はヒーローになれる』って…!かっちゃん…!!『勝ち取った』んだって…!」
足はまだ震えていた。でも、出久くんからそんな言葉を聞くのは初めてだった。
「だ…だから…僕は行くんだ…!!」
圧倒された。今までの出久くんではない、何かを確かに感じた。
「てめぇ…!」
かっちゃんは腕を振り上げた。校舎裏に連れてこられた時から何発かは覚悟していた。ぎゅっと目を瞑るその前に、二人の間に彼女が入ってきた。
「だめ、かっちゃん」
「離せ、心」
かっちゃんと呼ぶのを出久は久しく聞いた気がした。思えば彼女はいつからか愛称ではなく、彼の名前で呼ぶようになっていた。
「だめよ」
心ちゃんの深い色の目がじっとかっちゃんを見つめた。
ちっと舌打ちして、かっちゃんは乱暴に僕を離し、校舎裏から姿を消した。
「ごめんね。勝己くん、まだ分かってないと思うの」
心ちゃんは腰が抜けてしまった僕に手を差し伸べてくれた。しかし、すぐに気がついて手を引っ込めた。彼女の個性は心を読む。オールマイトとのことがばれてしまうかもしれない、と手を差し出すことを躊躇してしまったのだ。
「……、これ」
「あ!?…ありがとう」
白いハンカチ。女の子らしいものだ。本当はかっちゃんに使ってあげるはずだったんじゃないだろうか。白いそれを見つめて、お礼を言って黙り込む。彼女にこんなことしてもらう資格がないと思った。
「春から、またよろしくね、デクくん」
普段は呼ばない二人の間だけの特別な愛称で彼女は呼んで、笑った。
心ちゃんが校舎裏を去るまで、期待と後悔で、僕は動けなかった。
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