爆豪くんの隣の彼女 | ナノ


▽ 彼との受験


そういえばと、ふと思い出したことを呟いた。
今は勝己くんの自室で他に聞いてるものなどいないので単調直入に言う。

「この前出久くん、海浜公園の近くで見たよ」

勝己くんはそうかよ、とだけ言って黙ってしまった。ーー何をしているんだろうね、という心の疑問は勝己には届かなかった。
沈黙を破るかのように勝己くんの母親が心にケーキも紅茶を持ってきてくれたので一度話は中断された。

「あの日以来、何もしないの」
「うるせー」

部屋の中でも、いや部屋の中でこそ遠慮なく指を絡ませて手を繋ぐので、勝己の感情、思いは私にだだ漏れだったのだが、勝己はそんな様子は微塵も見せていなかった。

『無個性のくせに、無個性の……』

我が恋人ながら、そのみみっちさにふふっ、と小さく笑ってしまった。勝己くんの部屋の窓から外を見ると出久くんが必死にランニングしている姿が目に入ってきた。




10ヶ月後、いよいよ雄英の一般入試がやってした。朝同じ場所で待ち合わせをする。向こうの道から勝己くんがやってした。案の定マフラーなどしていなかったのて、心はバレンタインに渡すはずだったクリーム色のマフラーを勝己に巻く。
勝己くんは黙って巻かれてくれた。巻き終わった瞬間に触れるだけの口付けが降ってきた。

ぶっきらぼうに手を取り歩き出す。
手をつないだ瞬間、それは合歓祈願だということが分かっていた。


雄英高等学校入学試験会場と書かれた立て札を横目に、堂々とした門を潜り抜ける。
そこに見慣れた後ろ姿が立ち尽くしているのが見えた。

「どけデク!!」

すぐ様勝己くんが出久くんに声をかける。勝己くんの爆発的自尊心の前ではおはようも今日頑張ろうなんかは口が裂けても出ないのだ。

「かっちゃん!それに心ちゃんも…」
「俺の前に立つな殺すぞ」
「おはよう、出久くん」

私はいつも通りの挨拶をする。私が彼ににこりと微笑むのが気にくわないのか勝己くんは盛大に舌打ちした。

「おっお早う。がんバ張ろうねお互ががい…」

出久くんが言い終わる前に勝己くんは私の手を引いて出久くんの横を通り過ぎた。
10ヶ月ほど前なら何かしら嫌がらせでもしたと思う。勝己くんが丸くなったのか、「ヘドロ事件」でのことなのか……それは彼の名誉のために言わないでおこう。

「なぁアレ……とバクゴーじゃね?『ヘドロ』ん時の…」
「おお本物…隣の女子は彼女かな?」

10ヶ月も経つというのに、勝己くんはまだ有名人だ。本人は不本意のようだった。
私はいつも彼の隣にいるので同じように群衆の目に晒される。勝己くんと一緒だと思えばなんともないの。


ヒーロー科の実技試験は筆記試験のあとに行われる。筆記試験はヒーロー科と普通科、サポート科、経営科の三つに分かれる。

「じゃあここで」
「おう」

多くの言葉を交わさなくても私には、勝己くんには分かっている。絶対受かってみせる。そして毎日、雄英に通い、手を繋ぐんだ。それが小さな頃からの約束だったから。

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