爆豪くんの隣の彼女 | ナノ


▽ 彼の全部


勝己くんが敵に捕まって、私は何も出来なかった。ただ、勝己くんじゃないヒーローに守られただけ。勝己くんの隣が私の居場所なのに、そこに行くことすらできなかった。

「勝己くんっ、……勝己くん!」
「お嬢さん!危ないから下がって!」

お願いだから、誰か勝己くんを助けて。
そう願うと、野次馬の中からもう一人の幼馴染が姿を現した。




勝己くんは結局のところ、オールマイトに助けられた。昔から憧れていたヒーローに助けられても、プロのヒーローにタフネスや個性を褒められてもちっとも良い顔はしなかった。

最初に勝己くんを助けようとしたのは出久くんだった。彼はプロヒーローに怒られていたけれども、無個性だけれども、私は確かに彼の中にヒーローを見た気がした。





出久くんを追いかけて行った勝己くんが両手をポケットに入れて、肩を揺らしながら戻ってきた。眉間のシワがいつもより濃い。

心を読まなくたって分かる。
きっと悔しくて苛立って堪らないのだろう。
今日はこのまま帰ろう、と勝己くんの後ろについて歩き出す。

目の前の勝己くんがピタリと足を止めて振り返った。

「心、手ぇ」
「?」
「だから早く手ぇ出せ」

「でも、」
「いいんだよ!」

手を無理やり取って歩く。濁流のように勝己くんの思いが流れてくる。案の定、負の感情だらけだった。けれども。

「お前はな、しっかり俺のこと全部見てろ」

隣から見上げた勝己くんの表情は未だに歪んでいたけれど、でも私はそれすらも愛おしい。
勝己くんの良いところも悪いところも、すごいところもすごくなかったところも、みみっちいところも全てこれからもずっと私は愛しているのだ。

勝己くんの隣で勝己くんの全部を見る。それが私の与えられた役割だと信じている。


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